甘い蜜は今日もどこかで
第4章 【届かない想い】
どうしよう………どうしちゃったの。
こんな感情は初めてで頭が追い付かない。
子供みたいなのは私の方だ。
激しく動揺してしまってる。
肩を震わせて。
「す、すみません……すぐ止まりますから…っ」
声も上擦って情けない。
お願いだから顔見ないで。
「大丈夫、収まるまでこうさせて……」
この後、大事なミーティングも会議だってあるのに暫く動けないでいた。
「アイツ……同級生なんだ、高校からの」
「え、そうだったんですか」
だから言い方にも棘があったのね。
それなら多少理解は出来る。
「俺、アイツに負けてばっかだったんだよね、スポーツも勉強も……ずっとライバルだった……唯一勝てたのはこの会社での立ち位置だったよ、親や爺ちゃんのお陰だけどさ、だから此処では絶対に勝ちたくて……その矢先に椿取られたかと思ったら無性に腹立って……ごめん」
「副社長、呼び方……」
「あ、ごめん、つい」
「も、もう大丈夫ですので」と離れようとするけど素直に離してくれるわけないよね。
「泣かないで……これ以上辛いことはないな、藤堂さんの泣き顔、想像以上にヤバい……」
「も、もう泣いてないですから……どうか、離れてください……」
「ごめん……離したくない、もう少しこのままっていうのはダメ?」
そんなことをいちいち聞いてくるのは副社長の自信のなさが現れている。
少し赤らんだ目で見上げてしまうのは、その足りない自信を取り戻して欲しいから。
しょうもないことでクヨクヨしないで。
あなたはこの椅子に座って堂々としてれば良い。
私が傍で上まで伸し上がらせるって決めた男なのよ。
こんな序盤で躓かないでよ。
仕方ないでしょ、私、女だから。
知らず知らずのうちに雄を引き寄せてしまうんだから。
「ごめん、溢れて仕方ない」
頬に残る涙の跡を優しく拭ってくれて近付いてきた顔。
避けようと思えば避けれたのに。
目を閉じて受け入れた私はどうしようもないくらい落ちぶれたキャストに成り下がってしまった。
さっきまでの嫉妬はどうしたの…?
驚くくらい優しいキスね。
もう、とことん落ちてしまおうか。
いくらでも引き出せる理性は自らの意志で手放し、ただひたすら本能に従った。