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スミカ

第1章 105号室

ドアの下の隙間からヒールが見えて、俺は一瞬ギクッとした。


隣の部屋の住人は、若い女性だった。
髪をひとつに束ね、黒のスーツを着て眼鏡をかけている。全体的におとなしそうな感じだ。
ヒール…ということで、思わず反応してしまったが、昨夜の悪夢のハイヒール女とはちょっとイメージがかけ離れている。


「あ、おはようございます」


俺は挨拶をした。
普段はあまり世間体は気にしない方だが、なんとなく心細かったのと、ちゃんと住人がいた安心から思わず言葉が出てしまった。


眼鏡の女性は俺に気づくと軽く会釈した。
そして挨拶は返さずに、スタスタと歩いて行ってしまった。


「…ま、いっか」


隣の住人の顔を確認できただけでもヨシとしよう。


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