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義娘のつぼみ〜背徳の誘い〜

第2章 憧れの家族

「ぬいぐるみでいいの? テレビゲームの機械くらいなら買えるよ?」

 中学生の子にとっては、高価な物でもせいぜいこのあたりだろう。武司はそう判断して訊く。

「ううん、ずっと欲しいと思ってた子がいて……」

 頬を紅潮させる茉由。中学生にもなると、さすがにぬいぐるみは子供っぽいのではないか。彼女は自分でもそう思っていた。

「うん、分かった。じゃあ、この後買いに行こう」

 ファミレスを出た二人はショッピングモールへ引き返し、おもちゃ売り場へ向かった。

 たかがぬいぐるみと武司は侮っていた。茉由がねだったのは巨大なサメのぬいぐるみだった。予想外の、思わぬ大荷物になった。

 駐車場の車まで巨大サメを抱えて歩く武司。周囲からの視線が痛かった。


 帰り道、車の後部座席は巨大なサメが独占していた。

「あの、ありがとうございました。それからごめんなさい……」

 助手席の茉由がよそよそしく頭を下げる。ぬいぐるみを買ってもらったお礼と、大きなサメを運ばせてしまったことへの謝罪だった。

「いいよいいよ。ちょっと恥ずかしかったけどね」

 武司は笑いながら、横目で隣の茉由を見る。

「それから、茉由ちゃん、俺には敬語じゃなくてもいいからね。一応、俺たち親子なんだし」

 言った直後に、武司は(自分のことを棚にあげて……)と自虐した。彼も、妻の理恵に対しては、未だに敬語だったからだ。

「はい。でも……ごめんなさい、やっぱり武司さんのこと、お父さんとは思えなくて」

 茉由は口ごもりながら、モジモジと俯く。

「――そりゃそうだよね。歳も親子ほど離れてるわけじゃないし」

 武司は苦笑いで答える。本日現在、茉由は十三歳で武司は二十七歳。年齢差はわずか十四だ。

 だが、武司にとっては、そんなことはどうでもよかった。

 ようやく茉由が、自分の正直な気持ちを話してくれた。ほんの少しだけど、彼女は心を開いてくれたのだ。彼はそれがなにより嬉しかった。

「急にお父さんとは思えないだろうから、まずは少し歳の離れたお兄さんとでも思ってくれればいいよ。それならどう?」

 茉由に訊くと、彼女はしばらく黙考した後、

「うん、お兄ちゃんが出来たんだって思ったら、少し楽になった」

 と、顔に笑みを浮かべて答えた。彼女はすでに敬語ではなかった。武司は彼女との距離が一気に縮んだ気がした。

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