狂愛の巣窟〜crossing of love〜
第7章 【あなただけのモノになれたら幸せなのです…】
ピタッと止まった足に私も止まる。
振り向いた亨さんは今にも泣き出しそう。
ごめんなさい。
どんな想いで此処まで来たのか。
今の亨さんの気持ちを理解してあげれなくてごめんなさい。
踵を返し近付いて来る。
何を言われるのだろう。
咄嗟に目を逸らしてしまいました。
「やっぱり無理だ………」
「えっ……!?」
思わず顔を上げてしまう。
捨てられる、一瞬で脳裏に浮かんだ。
全身がイヤだと叫ぶ。
自業自得な事でも、もうあなたの目に映らなくなるのは耐えきれないと縋り付いて許しを請うだろう。
突然の事態に頭が真っ白になった。
驚き過ぎて言葉も出ない。
スッと伸びた手が私に触れてバックを持ってきた。
「ごめん、ここは怒るところなんだろうけど十和子がホテルに行かなかったことがめちゃくちゃ嬉しくて、冷たく出来ないよ、抱き締めて良いかい?」
予測不能な亨さんのセリフに思考回路がショート寸前だ。
ウルッと自然に溢れてくる。
「泣かないで」と抱き寄せられた。
温かい胸の中で私は子供のように泣いた。
泣き崩れた。
人の目も気にしないで亨さんに抱きついて、落ち着くまで優しく髪を撫でられた。
良いの?甘えても。
ダメだよ、目の前で浮気したんだよ。
ホテル行かなかったからってセーフな訳ないじゃない。
完全にクロだよ、キスしたもん。
全部見てたんでしょ?
「大丈夫、お仕置きはするからちゃんと2人の家に帰ってくれる?」
「ん……帰る……帰るぅ…っ」
「ハハハ、帰ろう?」
ハンカチまで渡してくれて背中も擦ってくれる。
それでいて自分も安堵しているの。
私が一線引くから本当は本気で彼を堕としにかかってるんじゃないかって不安に駆られたみたい。
シートベルトも着けてくれて至れり尽くせり。
メソメソする私の頭を撫でて静かに車は動き出した。
終始無言だったけど優しさに溢れてる。
ダメだよ、こんなぬるま湯じゃ。
私、一向に反省しないよ。
亨さんに甘えてばかりで。
ハッとした。
そうか、これも亨さんの手の内なのかも。
籠の中の鳥は羽ばたいたつもりでも気が付けばまた籠の中。
見えない鎖で繋ぎ止められている。
飼い慣らされているんだ。
私が、息の出来る範囲は限られている。