狂愛の巣窟〜crossing of love〜
第7章 【あなただけのモノになれたら幸せなのです…】
冷たい背中に追いつけない。
足が、動かない。
リビングのドア前で立ち止まる亨さんは再びこっちを見てくれた。
「自分の足で来るんだ、お仕置きされるのか、部屋に戻るのか」
「え…………?」
リビングか寝室か選べってこと?
寝室に行ったら……?
もう二度と優しく笑ってはくれないのかな。
右に曲がれば2階へと続く階段が。
真っ直ぐ行けばリビング。
自分で決めろと言われてる。
階段の前まで足をゆっくり進めた。
どうしよう、わからない。
亨さんにお仕置きされたい。
でも、一颯くんとの約束、守らなきゃ。
今日だけ、今日だけ我慢して。
申し訳ないけど今日のところは帰ってもらって………後で謝れば良い。
許してもらうまで謝れば………
目を閉じて右に曲がった。
一段目だけ、片足が乗る。
次の足が前に出て来ない。
ちっとも行こうとしない。
ドア前に立つ亨さんと再び目が合った。
「自分に正直で良いんだよ?それが十和子の答えなら受け止めるから」
いつも通りの穏やかな声。
亨さんならわかってくれる。
一颯くんを選んでも。
「どうしたの?登れば良いじゃない、何と葛藤してるの?十和子は調子悪いと言っておくよ」
ダメ………顔見たら揺らぐから。
挨拶だけでもって一瞬過ぎったけど。
階段の手すりから手が離れた。
登ろうとしていた足も戻り、亨さんの元へ駆け寄って行く。
「悪くない、どこも」
袖を摘んで潤んだ瞳で見上げてしまう。
とうとう、自分の足で来てしまった。
自らの意志で。
腰から引き寄せ支えられる。
「疼いちゃったんだ?悪い子だね、よっぽどお仕置きされたいみたいだ」
「違う……」
「良いの?簡単に一颯との約束破っちゃって」
俯いて何も言えない。
その時、けたたましく鳴り響く着信音。
バックに入れたままの携帯。
階段のところに置いてある。
「ほら、確認の電話じゃない?出た方が良いよ」
バックに目をやり亨さんに視線を戻す。
躊躇していたら亨さんが足を運びバックから携帯を出してしまう。
「ほら、やっぱり一颯だよ」と渡された。
出れる……はずない。
しばらく鳴って切れた。
「出ないと余計に心配させるぞ?アイツもなかなか嫉妬深いの知ってるだろ」