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幸せな報復

第19章 畑野浩志の観察

 彼女は痴漢男にプライドをズタズタに粉砕された。今まで嫌悪していた痴漢男に体を気持ちよくさせられるなんて彼女にとってあってはならない恥辱だった。彼女は卑しく汚らわしい痴漢男に悲しい惨めな女にされてしまった、という被害者意識が押し寄せてきた。本来被害者になるはずのない自分が痴漢被害にあった。これだけは自分でも謎だった。自分の体に新しい感覚が追加された。それも嫌ではなく、むしろ好きだという思いが追加されてしまい自分に恥じた。この彼女の体にうずいてきてしまう快感に立ち向かうには逃げた彼に対する怒りを増幅し消滅させるしかない。

「今度、痴漢をしてきたらあいつの腕をねじり上げて床にあの憎たらしい顔を地面に押し付けてつぶしてやる……」
 彼女はかつて考えたこともない暴力的で残忍な行動を想像し、こんなけだもののような心が生まれたことも恥じた。男に無事報復できたら元のアイドルだった頃のピアな心に戻れるのだろうか。彼女は突然自身に生まれた破壊的な思考に恐怖した。
 あの日以来、こんな詰まらないことに悩むようになった自分に心底被害者意識を感じた。これはすべてあの痴漢男のせいだ。
 だから、恵美は、浩志を足がかりに痴漢男に辱めを受けた仕返しを決意した。彼女は手始めに浩志の素性を少しずつクラスメートから聞いて情報を集めることにした。
 浩志とは在学3年間も教室がいっしょだったのに一度も会話を交わしたことがない。彼女は彼から嫌われているのでは、と思った。そんな私が近づいて彼に相手をしてもらえるだろうか。彼女が学園のアイドルと言っても人には好みがある訳だし、彼はどうなのだろう。彼女は一つの不安が生まれるとその不安が膨らむタイプだった。
 不安を解消するには浩志の本性、性格、好きな女の子のタイプを知ることだ。特に、好きな女の子のタイプは優先課題だ。そのタイプに自分を近づけなければこの報復計画は進まない。ハニートラップも仕掛けようがない。
 そこで、彼女は学園アイドル№2である同じチア部副部長・宮沢エミリに浩志のことを聞いた。
「どうしたの? 恵美、彼に気があるの?」

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