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幸せな報復

第19章 畑野浩志の観察

「何? 今まで、エロチックなわたしの妄想を無視し、そんなどうでもいいことを考えていた訳? 何よそれって!」
 彼女は心中で彼に憤った。そのとき、急に彼の顔が暗く険しい表情になった。
「えっ? わたしの心の声が聞こえたの?」
 彼女は心ではそう思いながら聞こえる訳がないわ、と鼻で笑った。
「でもね…… 僕は正直なところ、好きなきみの全部を見ていられる正面がいい。もちろん、きみが提案するように、卒業研究もきみの次に大切だから…… ぼくの隣に来てもらっても構わないよ、少しはきみの考えを尊重しないとね」
 浩志は恵美に何気なくいつもの口調で言った。恵美の顔が浩志の言葉を聞いて真っ赤になった。
「ええっえっ、や、やだぁー 浩志くーーーん、何ぃー、なんなのよぉーー 今のぉー ものすごくうれしいことを平然と何食わぬ顔して…… い、言っちゃってくれてるよぉー ねえぇ、自分で何言ってるか分かってるのぉー それって、絶対…… だれが聞いても告白よねぇー それも、わ、わたしによね うれしいぃー わたしも同じー 浩志くんが好きよぉー きみが好きだから同じ研究室に入って、研究内容も無理に似せて共同研究にしたのよ」
 恵美は浩志の告白に動揺して彼にどううまく返事をしようかと考えたが、それがまとまらないうちに心の思うがままに言葉をまくし立てていた。このとき、彼女はいつもの妄想でしゃべっていると思い込んでいたが、言葉はダダ漏れで現実の言葉として彼に発声しまくっていた。
 堰を切るという格言があるが、まさに彼女の言語脳の活動はそれだった。実に潔いすがすがしいほどの恥ずかしい彼女の発言が浩志に向けて発声されていた。
「そ、その提案ってさ、本当はね…… 研究より、どちらかと言うとね…… わ、わたしは大好きな浩志くんの隣にただ、ただ、す、座りたいだけだったの…… いや、それは嘘ね、君に隙があったらキスをしようと考えたりもしていたの…… これってさ、だ、だれが聞いてもレイプよねぇ…… 恥ずかしすぎるよねぇ? 
 えっ、…… えっ? 嫌だぁなぁ、わたし、何血迷っちゃったみたいな、なんか…… 言っちゃったみたいなぁーー 嫌だぁ、恥ずかし過ぎぃー わたしってどうかしてるわぁー…… わたしの頭が沸騰状態よぉーー もう駄目よぉーーーー」

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