テキストサイズ

幸せな報復

第19章 畑野浩志の観察

  *

 恵美と浩志は二人だけで台所にある4人掛けのテーブルに座っていた。
「ねえ、浩志くん…… 隣に…… 座ってもいい? 二人並んだほうが一つの資料を見やすいでしょ?」
 今まで浩志の対面に座って勉強していた恵美が浩志に向かって言った。頭を下にしていた浩志が顔を恵美に向けた。それを見た恵美はここぞとばかり上体を後ろに反らした。
「ねえ、わたしの体を見て…… 空手で鍛えた豊満な胸はいかがかしら? きょうはきみのために特別に薄着なの…… どう? ねえー、どうなの?! わたしを見てよ」 
 恵美は、彼に心中で懇願した。彼女には、彼が自分の胸をじっと見つめてから生唾を飲んだように見えた。
「ねえ、浩志くん、どうよ? いつも真面目に勉強しているからきょうは魅力的な私の胸をご褒美に見せてあげる。さあ、もっと見て……」
 相変わらず頭の中だけで彼に問い掛ける妄想女子は、浩志に対しての行動だけは消極的だ。彼女は浩志の前ではなぜか別人格の乙女になってしまう。日常、何でも積極的ではつらつと生きている彼女だが、彼の前では乙女で妄想どまり。彼女は彼の前では体がすくんでしまう。自分がしてもらいたい行動を浩志に期待するだけ。今も、彼女は彼の言葉を待っている。
「浩志くん、どうなの? 触りたくなったでしょ? あなたはあのお父さんの子ですもの…… 絶対、触ってくるわよ…… 何? わたしを見つめるだけで…… それとも、もう、私の体に夢中で言葉も出ないの? 刺激が強すぎて体がフリーズしたの? 大丈夫よ、わたしの性奴隷になれば好きなだけ見せてあげるわ、フフフ…… だから、何でもいいから、なんかしゃべってぇ」
 彼女は無言で見つめるだけの浩志に「もっとせまって来ていいのよ」と意気地ない自分のことを棚に上げ彼へのいらだちを募らせていた。
 二人の沈黙が続く時間、今まで無言だった浩志が口をついに開いた。
「うーーーん、な…… なるほど…… そうか…… ぼくもずっと資料が見にくいなとは思ってた…… 原因が分かったよ…… もちろん、僕もきみの提案に賛成だね……」
 浩志はそう言ってから首を傾げながら考えている。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ