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幸せな報復

第19章 畑野浩志の観察

「浩志くーーーん、だめぇーーーー」
 心地よくなるばかりの恵美はうれしい反面、浩志がそんな行動に出るとは予想していなかった。彼女は彼に襲いたくなるよう仕向けていたとはいえ、本当に思い通りに襲ってくるとなると、妄想大好き女としてはこのうれしい現実をどう受け入れたらいいのか分からず頭の中は大パニックだった。
 自分の妄想したとおり、このまま、浩志に身を任せていたら現実に肉体関係になってしまう。彼女はうろたえた。
「いやあぁーーー どうしたのぉーー 浩志くーーーん 冷静になってぇーーー お父さんが帰ってくるよぉーーーー いやぁーーー まだ、心の準備がぁーーー」
 彼女は浩志にこのまま押し倒され上からのしかかれ彼が自分の中に侵入してくる危険を感じた。押しやられていた学園のアイドル魂が防衛を開始した。
「勘太郎さーーーーん、助けてぇーーーー」
 恵美の渾身の叫びはいつものお得意の妄想で、現実として発声することはなかった。
「体はとても柔らかいんですね」
 恵美のふくよかな胸をもみしだいていた浩志は、乳房の柔らかさに、記憶もないと思っていた亡き母・仁美のことが突然思い出された。浩志が2歳の時、仁美は自動車事故で死んだと父から聞かされていただけで母のぬくもりは知らない。
 しかし、恵美自身知らない隠れている超能力と乳房の温もりにより2歳の思考に後退した浩志は、恵美の胸の上で止めどもなく涙を流し赤ちゃんのように泣いた。恵美が抱き締めた浩志の後頭部が小刻みに動き、時々「ウゥウゥッ」とくぐもった声が漏れ、恵美の耳に聞こえた。恵美は浩志の顔を見ることはできなかったが泣いているのはなんとなく分かった。
「えぇ? 浩志くん…… どうしちゃったのぉ? えぇっ…… 何で泣いているの?  もしかして、お母さんを思い出せたの?」

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