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幸せな報復

第19章 畑野浩志の観察

 恵美は浩志の頭をなでながら聞いた。彼はそれに応えず黙ってすすり泣いていた。彼女は天井を仰ぎ見ながらどうしたらいいか困った。浩志は自分をもう襲ったりしてくれないのだろうか。恵美は浩志に襲われたら怖いと思うくせに、彼が襲ってこない、と感じたら余裕が出た。自分の処女喪失の危険は回避された。それが分かると、それはそれで悲しく寂しく思った。彼女の脳内にはけだもの族の最低な行動をする変態女と人間の乙女の優しい思考が常に入れ替わり彼女を混乱させていた。彼女が妄想するようになったのは自分が暴走しないようにする防衛本能が備わったからに違いなかった。これもまた浩志と同じように人間への進化過程なのだろう。

  *

「また、わたしのプランが頓挫したわ」
 恵美は浩志の背中に両手を回し抱擁していた。浩志も恵美の背中に手を回し力強くしがみついていた。浩志にとって今の自分が性欲の対象ではないことを恵美は薄々感じていた。この抱擁で何を浩志は感じたのだろう。恵美はじっと浩志を抱き締めていた。恵美は畑野親子に報復することだけを考えて今まで進んできたが、別の感覚、新しい今までにない感覚を浩志から得ていた。そう、恵美の心からけだもの族のどうしょうもない邪心が浩志の清い心によって浄化されていく、いや、淘汰される日も遠くないかもしれない。
 それは引き裂かれて育てられた仁美と義美姉妹の望んだ未来でもあり、小椋海星に犯された沢子が生んだ子どもたちである仁美と義美の人類への幸せな報復でもあった。
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