
幸せな報復
第8章 卒業研究
彼女は浩志を心からうらやましく思った。それにこの手の顔をどこかで見た気がした。どこだろう。あの満面の笑顔…… 電車の中の中年男だ。既視感の原因にたどり着いた彼女に悔しさがこみ上げてきた。どうしても忘れられないあの男の顔。あの男の顔を思い出すと、体がうずく。触ってほしい、と思う。
「そうか、あのとき、あの人は幸せだったんだ」
恵美は人を不幸のどん底に落としていた張本人の中年男が幸せいっぱいの顔をしていたことに腹が立ったが自分にも腹を立てた。あの中年男に体をなでられて初めは嫌に思っていたのに、直ぐに、気を失いかけるほど喜びを感じてしまった自分があさましくて、自分の体を恥じていた。
「あんた、男ひでりだったからね? だから、思いがけずに興奮したんでしょ?」
自分の頭の中でさげすむ女の声がこだまのように反響している。その声を時々聞くたびに彼女は頭を左右に激しく振って追い払おうとした。しかし、そんなことでは頭の中の女は消えてなくならなかった。ことあるごと、女は脳内に出現し恵美をさげすむのだ。
「恥ずかしい女ね? 日照りさん、乾燥してるの?」
恵美は「やめてー」と絶叫する。
そんなことの繰り返しだから、恵美はあの満員電車の事件から頭の中は常にモヤモヤしていた。あの中年男と得体の知れない女の声が彼女の頭に居座っていて彼女を交互に入れ替わり立ち替わりモヤモヤさせた。
あの日以来、あの中年男は恵美の体に入り、内側からあの忌まわしい手を使ってなで回してくるのだ。そのたびに彼女は喜びを全身で感じ、意識を失いそうなくらい極限に達し幸せな感覚が押し寄せて平常心が乱されてしまう。
「もう、あたしの体をなで回し、いたぶるのは勘弁してください」
彼女は脳内で中年男の足下に抱きつき懇願する。しかし、男は彼女の期待通りの展開をしてくれることはない。
「もっと、他にもたくさん触ってほしいのです……」
「そうか、あのとき、あの人は幸せだったんだ」
恵美は人を不幸のどん底に落としていた張本人の中年男が幸せいっぱいの顔をしていたことに腹が立ったが自分にも腹を立てた。あの中年男に体をなでられて初めは嫌に思っていたのに、直ぐに、気を失いかけるほど喜びを感じてしまった自分があさましくて、自分の体を恥じていた。
「あんた、男ひでりだったからね? だから、思いがけずに興奮したんでしょ?」
自分の頭の中でさげすむ女の声がこだまのように反響している。その声を時々聞くたびに彼女は頭を左右に激しく振って追い払おうとした。しかし、そんなことでは頭の中の女は消えてなくならなかった。ことあるごと、女は脳内に出現し恵美をさげすむのだ。
「恥ずかしい女ね? 日照りさん、乾燥してるの?」
恵美は「やめてー」と絶叫する。
そんなことの繰り返しだから、恵美はあの満員電車の事件から頭の中は常にモヤモヤしていた。あの中年男と得体の知れない女の声が彼女の頭に居座っていて彼女を交互に入れ替わり立ち替わりモヤモヤさせた。
あの日以来、あの中年男は恵美の体に入り、内側からあの忌まわしい手を使ってなで回してくるのだ。そのたびに彼女は喜びを全身で感じ、意識を失いそうなくらい極限に達し幸せな感覚が押し寄せて平常心が乱されてしまう。
「もう、あたしの体をなで回し、いたぶるのは勘弁してください」
彼女は脳内で中年男の足下に抱きつき懇願する。しかし、男は彼女の期待通りの展開をしてくれることはない。
「もっと、他にもたくさん触ってほしいのです……」
