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幸せな報復

第15章 接近する恵美

 8月下旬、浩志と恵美の卒業研究は調査のため外出することが多くなった。勘太郎は恵美を目の前にすると、彼女がいつ自分の犯行を思い出すかと思うと気掛かりで心が落ち着かなかった。3人で雑談していても浩志が途中中座し、恵美と勘太郎が二人きりになってしまうと何か気まずい空気が流れる。恵美は勘太郎を知っていることを隠しているだけで電車内のことを思い出すと体が熱くなった。恵美は心臓の鼓動が速くなってくることを感じるとそれを忘れようとし慌てて会話を始めた。
「お父さんって…… 懐かしいっていうか…… 前にどこかでお会いしたような? そー 前世とかで知り合っていたとか? それは、数千年前とか…… 数年前とか…… そんな訳なくて…… ただ、ご近所さんだったからどこかですれ違っていたり…… 駅前のカフェの席で隣り合っていたりとか…… なんとなく…… 前に会ったことがあるような…… 気がするんです」
 恵美は話す内容がしどろもどろになるのが話ながら分かった。勘太郎の手がまた自分の体に触れてくるのではないかと思うと期待で体がほてってくるのだ。
 そんな恵美の発した言葉を考えると、勘太郎は今にも心臓が破裂しそうなくらい速くなり目の前がぐるぐる回り出しそうだった。
「きみの言う数千年前に会ったとか…… 僕たち…… どんなふうに関わっていたんだろうね?」
「え? いやですよ。そんな真剣に相手しないでください…… もうー、いやだなー」
 恵美は屈託なく大きな声で笑った。勘太郎は恵美に電車で会ったことを言っているのか単刀直入に確認したかったが、自分が性犯罪をしたことを思い出されたらそれはそれで困る。その後の恵美の態度によっては浩志との関係にひびが入りそうで結局誤魔化すほうがいいと思った。彼女も痴漢という災難は一刻も忘れたい気持ちで一杯だろう。嫌なトラブルは思い出したくないはずだ。だから、思い出してくれないほうがいい。

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