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幸せな報復

第15章 接近する恵美

 恵美は勘太郎を慈しむように左手を彼の額の上に置いた。閉じていた目を大きく開いた勘太郎は布団から左手を出すと恵美の手を上から包むように握った。
「ああ、また、やってしまった…… 恵美さん、僕にもう関わらないでもらえないか? 僕はきみを前にすると気持ちが抑えられない…… 理性が消えてしまうんだ……」
 彼は口ではいけないと言いながら握った手をさらに強く握った。
「えぇっ、そんな…… あたしはお父さんが好きですから…… 手を握られたくらい全然気にしていません…… だから…… 遠慮なさらずわたしの手に握っていていいんですよ…… 満員電車で声を上げたりしなかったでしょ…… 痴漢って大嫌いです…… でも、お父さんは痴漢と思わなかった。だから…… お父さんに触ってもらってうれしかったんです…… 触られるたびに気持ちが良くなっていく。自分でも信じられなかった。わたし、あのとき、お父さんに体中のいろんなところを触られていたら…… だんだん…… 自分の中で何かが大きくなってきたの。それ、良く分からない変な気持ち…… 今まで感じたことのない気持ち…… ほら、お父さんだって、あたしの体に触れて…… あたしのうっとりした表情を見て…… うれしかったのでしょ? あたし、分かったんです。お父さんはわたしに触れて幸せだった。あのときの幸せな顔がわたしの中の何かに力が働いたとしか思えないの…… たぶん、遠い昔から、小さい頃からお父さんを知っていたんです。お父さんは獣だった。わたしを幸せにする獣と教えられてきた記憶がよみがえったの。
 理性がある振りしても…… お父さんは性欲旺盛な最低、低俗な陰獣なのよ…… お父さんがわたしに近づいたのは運命に導かれただけ…… あたし…… 痴漢に触られてうれしかったなんて信じられなかった…… だから…… あたしのこと…… きょうこそ自由に触ってくれていいんですよ…… ほら、こことか…… お父さんの手で触ってくれていいんです」

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