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幸せな報復

第15章 接近する恵美

「恵美さん…… きみは人間のままなら理想の女性だ……浩志にはもったいないくらいのいい女だ。僕は人間として生きるきみたちの幸せを願っていたい…… 狼族にはなってほしくない。きみは狼族の天敵がいることを知らないのか? このまま何の対策もしなければ狼族は途絶えるしかない」
 人間としていき獲得した理性がわずかに残る勘太郎は、恵美と浩志の幸せを心から願っていた。彼の脳内では人間として生きて獲得した理性が獣への変身を阻んだ。
 勘太郎に遭遇してから、狼女の血が爆発的に増殖し始めていた恵美は妖艶な行動で勘太郎を獣道へ導こうとしていた。恵美には狼族の勘太郎との性交しか興味がない。
 勘太郎は周囲の状況を理解する力がわずかに残存したお陰で、恵美の美しい獣肉に手を掛けてしまいたい狼族の本能を抑えられた。だが、それはあくまで今の状況だ。さらに、これから恵美の容赦ない挑発的な行動を受け続けたら、彼の人間としての知性、理性が堰を切って崩壊することは予測できた。彼に根付いていた狼族の心は恵美の体から発散する獣臭に的確に反応していた。痴漢をしてしまったのも恵美の全身から発散するメス特有の獣臭に引き寄せられたせいだ。勘太郎に何万年も前から形成されてきた遺伝子が獣臭に共鳴しただけだ。だから、勘太郎は痴漢した恵美への犯罪行為を犯罪として認識していない。彼にとっての痴漢は狼族のパートナーを選別するための儀式でしかなかった。彼は痴漢をしたい衝動が体の芯から湧き上がり、恵美の体に触れたことで獣へ向かって変身を開始した。彼がまた人間にとどまるには恵美から離れるほかない。
 狼ハンターは狼族の習性を熟知していた。彼らはパートナーを抹殺することで自然消滅させようとしていた。ハンターから抹殺されることを恐れた彼は防衛本能によって恵美から逃げた。彼女の魅力に絡み取られたら獣になってしまい殺されることは深い記憶の中に残る恐怖が警告を発したのだ。彼は痴漢として逮捕されることを恐れた訳ではなかった。恵美とまぐわうことで強烈な獣臭を周囲に発散させてしまいハンターに気付かれることを恐れた。

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