幸せな報復
第15章 接近する恵美
勘太郎には均整の取れた恵美の全身が銀色の短毛で覆われた狼の姿に見えた。そこには見慣れたTシャツ、紺のジーンズの明るくはつらつとした健康的な浩志のガールフレンドであるかつて見た恵美の姿はなかった。全身が毛で覆われた獣がとがった口から長い舌を伸ばしているおぞましい姿だった。
発熱で疲れ切った勘太郎は今見ているものが、何が妄想で現実なのか分からなくなっていた。20年前と同じように恵美も仁美と同じ狼女の能力を持っているなら、自分は恵美に共鳴し狼男に確実に変身していくに違いない。狼ハンターから狙われる恐怖の記憶がフラッシュバックしてきた。交通事故死に見せ掛けて狼族を殺す集団が狼ハンターたちだ。引いて横たわった狼にさらにとどめのようにバックしてひき殺す一連の手口は、ハンターたち組織の犯行声明なのだ。
どうして狼族はハンターから狙われるようになったのか理由が思い当たらない。仲間が次々にいとも簡単に抹殺されている。我々は一体彼らに何をしたというのか。
20年前に起きた殺戮がまた始まる事態は避けたかった。かつて、仲間は気配を消して社会から身を完全に隠した。人間の体に変身するのは1年の歳月を要する。人間として生活し、いつか本当の人間になって争いを終わらせたい一心で人間に変身するまで山の中に身を隠した。
勘太郎は電車内で仁美そっくりの女性に痴漢をしたことで人間になれた、と楽観した矢先のことだ。痴漢した相手が獣族のメスだったとは予想できなかった。勘太郎は20年間、異性と交わろうという欲望が起きなかった。ようやく人間の女に対し性欲が生まれたと喜んだが、思い違いだった。獣は人間に体型が変身しても獣にしか性欲が生まれないのかもしれない、と実感した。人間の女に性欲が起きないように遺伝子が組む込まれている。
やはり、いつまでたっても獣族は獣なのだ。獣族同士で交わらなければ獣族の遺伝子は継承されない。獣になっていた遺伝子情報のない人間を生み、人間として生きさせるしか狼族が生きる道はない。これだって時代に合わせた立派な進化だ。
そうやって、獣族は人間界に溶け込めばいい。勘太郎はそう思っていた。身体能力が高いだけの狼族など消滅しても構わないと思った。
発熱で疲れ切った勘太郎は今見ているものが、何が妄想で現実なのか分からなくなっていた。20年前と同じように恵美も仁美と同じ狼女の能力を持っているなら、自分は恵美に共鳴し狼男に確実に変身していくに違いない。狼ハンターから狙われる恐怖の記憶がフラッシュバックしてきた。交通事故死に見せ掛けて狼族を殺す集団が狼ハンターたちだ。引いて横たわった狼にさらにとどめのようにバックしてひき殺す一連の手口は、ハンターたち組織の犯行声明なのだ。
どうして狼族はハンターから狙われるようになったのか理由が思い当たらない。仲間が次々にいとも簡単に抹殺されている。我々は一体彼らに何をしたというのか。
20年前に起きた殺戮がまた始まる事態は避けたかった。かつて、仲間は気配を消して社会から身を完全に隠した。人間の体に変身するのは1年の歳月を要する。人間として生活し、いつか本当の人間になって争いを終わらせたい一心で人間に変身するまで山の中に身を隠した。
勘太郎は電車内で仁美そっくりの女性に痴漢をしたことで人間になれた、と楽観した矢先のことだ。痴漢した相手が獣族のメスだったとは予想できなかった。勘太郎は20年間、異性と交わろうという欲望が起きなかった。ようやく人間の女に対し性欲が生まれたと喜んだが、思い違いだった。獣は人間に体型が変身しても獣にしか性欲が生まれないのかもしれない、と実感した。人間の女に性欲が起きないように遺伝子が組む込まれている。
やはり、いつまでたっても獣族は獣なのだ。獣族同士で交わらなければ獣族の遺伝子は継承されない。獣になっていた遺伝子情報のない人間を生み、人間として生きさせるしか狼族が生きる道はない。これだって時代に合わせた立派な進化だ。
そうやって、獣族は人間界に溶け込めばいい。勘太郎はそう思っていた。身体能力が高いだけの狼族など消滅しても構わないと思った。