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幸せな報復

第15章 接近する恵美

 電車が駅に到着すると、くず男は美女に手首を握られ電車から引きずり下ろされ、それから一方的にホームの上を引きずられた。この数分間、彼は彼女によって駅員に通報されると思って両足をばたつかせてあがいていた。彼は握られた彼女の手を振りほどこうとするが、彼女の力は圧倒的に強かった。少しでもあがけば手首の痛みが彼の全身を満遍なく駆け巡った。
「うわぁー 勘弁してよー お姉さーん たすけてぇー」
 女は立ち止まると男に振り向いた。男は女に片腕を取られたまま体を反転させられる。彼はうつ伏せにされ脇腹を膝で押さえつけられた。彼は全く動けなかった。ホームの冷たいコンクリートに男のほおが地面にめり込むように押し付けられた。
 今朝、彼はホームでターゲットを絞っていた。そして見つけたのがこの怪物女だった。か弱く華奢な美女と思って軽い気持ちで近づいた彼女は、近づけばさらにナイスバディーの女の体をしており触りたい気持ちが一杯になった。電車に乗って触ったときは天に昇るほど幸せで満たされた。それがこの体たらくだ。
 この怪物女が痴漢犯罪取り締まりのおとり捜査員ではないか、と思うほど彼は恐怖を感じていた。華奢に見えそうな体つきの割にどこから湧き出るのか力が強い。百歩譲って中には見掛けによらない強い者もいるだろうがそんなレベルではなかった。この女の容姿からは想像できない力。訓練されたとしか思えない無駄のない動き。手首だけしか握られていないのに全身を動かそうとしてもピクリともしない。
「これは何の格闘技だ。手首にでも秘抗があるのか。女は取り締まり捜査官か」と彼はねじ伏せられながら顔を女にようやくの思いで向けた。その直後、男の全身が30センチメートルほど宙に浮き、体が軽くなったかと思うと仰向けにくるりと反転させられた。彼女は無言で、また、先ほどと同じように彼の背中を床にふわりと寝転がらせた。彼は地面にたたきつけられず良かったと安堵した。それも束の間、彼は前と同じように地面を引きずられる。

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