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あの店に彼がいるそうです

第7章 どちらかなんて選べない

「もしもオペラに移る時が来たら……シエラのメンバーは連れてこないんですか」
「全員移してもいいだろうし、全く新しいメンツも面白い」
「歌舞伎町トップのブランドに未練がある奴は来ないだろうけどね」
 まるで自分は興味ないような。
 俺は類沢の紅茶をすすりながら、二人の背中を眺めた。
 対になってこそ成り立つ二人。
 いつでも離れることを前提にしていたなんて。

 車に戻る。
「また来れますか」
 河南がシートベルトを手にしながら尋ねる。
 いや、頼むのほうが正しいか。
「開店したらな」
 篠田が小さく答えた。
「くくっ……なんでこのメンバーで来たんだろうね」
 あんたがいうか。
 類沢は足を組んで俺を向いた。
「デートの邪魔してごめんね?」
 その今更過ぎる謝罪と気持ちの篭らなさに、俺は返す言葉が思いつかなかった。
 また河南がこちらを向く。
「類沢さんが羨ましいです」
「ナニが」
「毎日瑞希と一緒なんですよね」
 篠田が笑った。
 エンジンをかけて、車が動き出す。
「嫉妬しちゃう?」
 ぐいっと肩を抱かれた。
 首元の香りにくらっとしてしまう。
「むしろ瑞希が羨ましいかな」
「あはははっ。そう?」
 急いで身を起こし、頬に触れる。
 うん。
 熱くなってない。
 顔を上げた時、ちょうど河南が座りなおした。
 直前までの視線の残像を漂わせて。
 どこまで勘付いて、なにを思っているのか。
 すこし項垂れた後姿は本音を教えてはくれない。

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