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クローン人間は同じ夢を見るのか 〜オルタナティブ・キイ〜

第2章 旧市街地の戦い


ブルガリア共和国の観光スポット、ネセバルはもともと黒海に浮かぶ島である


そこから陸地をつなぎ古代都市として栄えた歴史ある街がネセバルだ


都市そのものが世界遺産に認定されている


また、ほど近くにあるサニービーチはリゾート開発され、欧州イチの観光地だ



世界中から観光客が押し寄せていたネセバルだが、それもネオ・ジオンによる〈地球寒冷化作戦〉により一変してしまった


天空は厚い雲に覆われ、地上にはわずかな光しか届かない

そして地表は常に暴風雨が吹き荒れる


そんな中でも訪れてくれる観光客は貴重だ


ネセバルの旧市街地でショッピングを楽しんでいたグリメット一家は街中に響き渡るサイレンの中にいた



けたたましく鳴り響くサイレン


まばらな観光客が呆然としているあいだ、地元の人間たちは慌てて店を閉めていく


母親アリッサ・グリメットと10人の娘たちもその中にいた


「な、なにッ!? 突然なにが起こったのッ?」


「お母さま落ち着いて」

「この市街地は危ないわ」

「高台に出ましょう」

「海際に要塞の遺跡があったはずよ」


動揺する母親アリッサと異なり、まだ小さな娘たちのほうが冷静に行動していた


いや、冷静というよりこの緊張感に慣れているのだ


「しまったね」


「そうね」


「シュメッターリングの機体が手元に無いわ」


「お父様と共に艦は首都ソフィアへ向かった」

「どうする?」


「まずはお母さまとともに安全な場所で待機しましょう」


「そうね」


「そうするしかないわね」


「戦えなくて」

「残念だわッ」


10人の娘たちは思考を共有しているかのように同じ判断を繰り返していった


先に気がついたのは黒髪の娘だった

水平線に巨大な浮遊物体


それを金髪の娘が指を指し、赤髪の娘が母親の手を握り連れ出す


容姿の異なる10人の娘たちは皆おなじ顔立ちをして、ここがすぐにでも戦場になる事を確信した


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