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メダイユ国物語

第2章 ラバーン王国のプリンセス

「――言うなれば」

 歴史の裏に隠された真実を、ひとしきり語り終えたオズベリヒは続ける。

「我々ユゲイアは代々、あなた方ラバーン王国の汚れ仕事(ウェットワーク)を一手に引き受けてきたわけです。歴史に名を残すことも出来ない、そんな悪行の数々をね。私はそれがどうしても許せないのです」

 マレーナには、まだ十六歳の少女には、受け入れがたい話だった。

「嘘です……」

 それでも、今現在ラバーン王国を代表する立場である彼女は口を開いた。

「そんなのは、あなたたちがこの愚劣な行いを、正当化させるために用意した方便です」

 そう言いながら、マレーナはまるで汚いものを前にしているかのように、オズベリヒから顔を背ける。すると彼は立ち上がり、ツカツカと王女の元へ近づいて彼女の顎を手に取ると、王女の顔を強引に自分の方へ向けた。

「我々がこの国に争いを仕掛けるために、嘘の理由をでっち上げたとでも? 心外ですな」

 王女に対する言葉遣いは丁寧さを崩していないが、彼の立ち振舞いにはかなりの苛立ちが現れていた。

「くっ――」

 王女が負けじと彼を睨みつけた、その直後だった。

 侍女のグレンナが二人の間に割って入り、

「この無礼者っ! 姫様への非礼は許しませんっ!」

 オズベリヒに向けて言い放った。

 すると彼は、

「たかが侍女の分際で――」

 彼女の腕を掴み、力任せに引いて自分の脇へ追いやる。

 急な出来事に、態勢を崩したグレンナは、よろけて跪(ひざまず)いてしまった。

「わたしの侍女に何をするっ!」

 マレーナは自分のことのように、怒りを露わにオズベリヒへぶつけ、侍女の元へ駆け寄ろうとした。

 その時、ヒュンッという空気を切り裂く音と共に、マレーナの目の前を何かが勢いよく横切った。

「がっ――あっ!」

 直後、グレンナは目を見開き、苦しげな声を上げた。

「グレンナ、何が――」

 マレーナの目の前で、グレンナの喉元がパックリと裂け、そこからおびただしい量の血が吹き出した。そして彼女は勢いよくその場に倒れ込んだ。室内に敷き詰められた毛足の長い絨毯が、見る見るうちに赤く染まっていく。

(いったい、何が起きたの)

 一瞬の出来事に、マレーナの思考が追い付かない。

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