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メダイユ国物語

第4章 非情な実験

 オズベリヒの説明で、マレーナはようやく思い出した。かなり昔に、生物図鑑で写真をみたことがあった。醜い生物という印象しかなく、興味が沸かなかったため、彼女は名前までは覚えていなかった。

 それはいいとして、マレーナは疑問を覚えた。そんな生物を使って何を実験しようと言うのか。

「我々ユゲイアの研究者は、昔からドワモ・オーグを飼い慣らせないかを研究してきました」

「何のためにですか?」

「彼らの身体能力は人間を遥かに越えています。兵士として戦場で戦わせれば、敵にとっては驚異となるでしょう。言ってみれば生物兵器の開発です」

「……でも上手くいかなかった」

「はい。研究者や兵士に多くの犠牲者が出たそうです」

「愚かなことを――」

 マレーナは呆れるように言い捨てた。オズベリヒの機嫌を損ねてしまったと思ったが、彼は全く意に介することなく続けた。

「その後、脳を手術する、あるいは遺伝子操作で、何とか彼らを意のままに操れないか、様々な研究を重ねたそうですがいずれも失敗に終わりました。私も同意します。無駄なことをしたものだと」

 彼はマレーナの反応を窺うように言葉を区切る。彼女が何も言わずに聞き入っていることを確かめると、さらに続けた。

「ただひとつだけ、先人たちが行わなかった実験があります。計画自体は当時からあったそうなのですが、実行はされなかった。そこで、我々が行おうというわけです」

「その、ドワモ・オーグを使った実験をですか? 今からここで?」

 思いも寄らぬ展開に、マレーナは驚きの表情を向けた。

「そのとおりです。ここの設備は素晴らしい。実験には最適です。実験体もすでに用意しています」

 そう言うと、オズベリヒはテーブル上の操作パネルを操作し、

「被検体を運び入れろ」

 マイクに向けて呼びかけた。

 程なく窓の向こうの広い部屋の扉が開かれ、台車に載せられた大きな檻が運び込まれた。

「ドワモ・オーグの若い雄(おす)です」

 オズベリヒが紹介した、ちょうどそのタイミングで、檻に照明が当てられた。

 檻の中にうずくまる生物に、マレーナは目を見張った。

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