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メダイユ国物語

第4章 非情な実験

 オズベリヒは注射器を白衣姿の部下が手にするトレイに戻し、続いてもう一つの小さなガラス瓶を手に取った。それは化粧品の、香水の瓶のように見えた。ガラス瓶の頭にはプラスティック製の蓋が付いており、その天辺はボタンになっている。彼はファニータの元へ近づき、瓶の頭部分を彼女に向けた。そしてボタンを押す。蓋側面から、中の液体が霧状になって噴出した。

「あっ……」

 霧状の液体がファニータに降り注ぐ。オズベリヒは彼女の身体にまんべんなくそれを吹き掛けた。甘いような、酸っぱいような、微かな匂いが彼女の鼻孔を刺激した。

「あの、これは……」

 ファニータはオズベリヒに顔を向けて訊く。

「安心しなさい。害はありません。これがお前の身を守ってくれるでしょう」

 すると、オズベリヒの背後でグルルルという、獣の唸りが激しさを増した。

 今まで檻の中で大人しかったドワモ・オーグが興奮していた。彼は檻の中で忙しなく動き回る。

「この匂いに反応したようですね。準備は整いました、始めましょう」

 そう言うと、オズベリヒは小瓶を戻しながら室内の白衣姿たちに声を掛けた。白衣姿全員が部屋を出る。彼らと入れ替わる形で、二人の兵士姿の男が入って来た。それぞれ手には長銃を携えている。

「お前は身体を楽にしていなさい」

 続けてファニータにそう言うと、彼は部屋を出る。彼女は四つん這いからベッドの上に座る格好に態勢を変えた。

 しばらくすると、オズベリヒは隣の部屋へ戻って来た。マレーナは窓から隣の部屋を凝視している。侍女のことが心配でならなかった。

「さて姫君、一緒に実験を見届けることにしましょう」

 オズベリヒは手にした物をテーブルに置きながらマレーナに言った。

「ファニータに何をしたの? 大人しかったドワモ・オーグはなぜ急に興奮したのです?」

 既に観念したのか、逆らう気力を失くしたマレーナは、静かな口調で尋ねた。

「最初に投与した薬品は『排卵誘発剤』です」

「排卵誘発剤?」

「彼女が妊娠しやすくなるよう、胎内の生殖器官、卵巣に働きかけて排卵を促します」

「そんな……酷い」

 両手で顔を覆うマレーナ。だが、オズベリヒはあくまでも事務的な声で続ける。

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