メダイユ国物語
第4章 非情な実験
「何を仰います。この実験は人間とドワモ・オーグの間で子を作るためのものです。一度の行為で妊娠するのであれば、その方がいいではありませんか。それとも、彼女に何度もアレの相手をしろとでも?」
マレーナは大きく首を横に振った。
「これは彼女のためを思えばこその処置なのですよ?」
無茶苦茶な理屈だった。ファニータのことを思うのであれば、そもそもこんな実験など行わなければいい。だが、今の王女の権限を何も持たないマレーナには、どうすることも出来ないのも事実だ。せめて侍女に、ファニータに少しでも負担が掛からないようにしてもらうほかなかった。マレーナは黙って頷いた。
「ご理解いただけて幸いです。次に彼女に吹き掛けた液体も、彼女を守るためのものです」
オズベリヒはマレーナが大人しく自分の言葉に聞き入っていることを確認して続ける。
「あれはドワモ・オーグの雌(めす)の身体から抽出した一種のホルモンです。彼らが繁殖期に入ると、発情した雌は雄を引き寄せるための匂いを周囲に振り撒きます。一般にフェロモンと呼ばれる物質です。それを身体に振り掛けることで、あのドワモ・オーグの雄が彼女を同族の雌であると認識すれば、彼女が襲われるようなことはないでしょう」
説明のほとんどは、ファニータを気遣うマレーナの耳には入っていなかった。それを知った上で、彼はさらに続けた。
「先ほどあの雄が興奮したのも、雌の匂いを嗅ぎ取ったからです。危険はありません。それに、もしあの雄が交尾を行わずに彼女を殺そうと襲い掛かるようであれば、あの者たちがすぐに救出する手筈になっています」
オズベリヒは窓の向こう、檻の両側に控えている二人の兵士を指差した。
「場合によっては被検体のドワモ・オーグを射殺するよう命じています。貴女の侍女の命が最優先です」
彼が初めてファニータに対して気を配るような発言をした。そう思い、マレーナはオズベリヒに顔を向ける。
「ドワモ・オーグはいくらでも代わりを用意することが出来ますが、人間の女、それもあのような上物の生娘はそう簡単にはいかない。貴重な女です。大事にしなければなりません」
そう言うことか――マレーナは落胆する。彼はファニータを人間とは思っていない。実験道具としか考えていない。マレーナに再び悔しさが込み上げた。
マレーナは大きく首を横に振った。
「これは彼女のためを思えばこその処置なのですよ?」
無茶苦茶な理屈だった。ファニータのことを思うのであれば、そもそもこんな実験など行わなければいい。だが、今の王女の権限を何も持たないマレーナには、どうすることも出来ないのも事実だ。せめて侍女に、ファニータに少しでも負担が掛からないようにしてもらうほかなかった。マレーナは黙って頷いた。
「ご理解いただけて幸いです。次に彼女に吹き掛けた液体も、彼女を守るためのものです」
オズベリヒはマレーナが大人しく自分の言葉に聞き入っていることを確認して続ける。
「あれはドワモ・オーグの雌(めす)の身体から抽出した一種のホルモンです。彼らが繁殖期に入ると、発情した雌は雄を引き寄せるための匂いを周囲に振り撒きます。一般にフェロモンと呼ばれる物質です。それを身体に振り掛けることで、あのドワモ・オーグの雄が彼女を同族の雌であると認識すれば、彼女が襲われるようなことはないでしょう」
説明のほとんどは、ファニータを気遣うマレーナの耳には入っていなかった。それを知った上で、彼はさらに続けた。
「先ほどあの雄が興奮したのも、雌の匂いを嗅ぎ取ったからです。危険はありません。それに、もしあの雄が交尾を行わずに彼女を殺そうと襲い掛かるようであれば、あの者たちがすぐに救出する手筈になっています」
オズベリヒは窓の向こう、檻の両側に控えている二人の兵士を指差した。
「場合によっては被検体のドワモ・オーグを射殺するよう命じています。貴女の侍女の命が最優先です」
彼が初めてファニータに対して気を配るような発言をした。そう思い、マレーナはオズベリヒに顔を向ける。
「ドワモ・オーグはいくらでも代わりを用意することが出来ますが、人間の女、それもあのような上物の生娘はそう簡単にはいかない。貴重な女です。大事にしなければなりません」
そう言うことか――マレーナは落胆する。彼はファニータを人間とは思っていない。実験道具としか考えていない。マレーナに再び悔しさが込み上げた。