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メダイユ国物語

第4章 非情な実験

「そうそう、珍しい物をお見せしましょう」

 オズベリヒは言いながら、先ほどテーブルに置いた物を手に取り、マレーナの前に差し出した。

「これが何か分かりますか?」

 それはガラス製の薄い円筒形の容器で、実験器具の一種『シャーレ』、あるいは『ペトリ皿』と呼ばれる、細菌の培養実験などに使われる蓋付きの皿だった。中には白い液体が入っている。

 マレーナがシャーレの中に目を凝らすと、それは液体だけではなく、その中で無数の小さな粒がひしめき合い蠢いていた。

「微生物……ですか?」

 首を傾げながらマレーナは投げやりに答える。今の彼女には全く興味が持てない、どうでもいいことだった。

「これはドワモ・オーグの雄から採取した精液、精子です」

「え?」

「姫君もご存知ですよね? 性行為の際に、男性が生殖器官から排出する体液です」

 顔を赤くしながら無言で頷くマレーナ。座学で習ったことがあるため、当然その役割も含めて知識としては知っていた。写真を見たこともあるので形状も把握している。目の前のシャーレの中で蠢いているそれは、詳しく見ると知っている物と酷似していた。

 だが、マレーナが見知っている人間の精子の形状は顕微鏡写真によるものだった。人間の精子は、数百倍に拡大してようやくその形が把握出来る大きさである。ところが目の前のそれは、肉眼でその形状が確認出来る大きさだ。

「驚きでしょう? 我々人間の精子と比べたらかなりの巨大サイズと言える」

 オズベリヒは平然と続けるが、マレーナは言葉が出なかった。

「これが本当に人間の卵細胞と結合して受精可能なのか、私は楽しみでなりません」

 彼はワクワクとした、好奇心に満ちた子供のような笑顔を見せる。

(こんなものを胎内で出されたら、ファニータは確実に妊娠してしまうのでは)

 悪寒が走った。マレーナの全身が粟立った。

「さて、そろそろ彼女にも薬が効いてきた頃でしょう」

 オズベリヒは机の機械を操作し、マイクの通話スイッチを入れる。

「檻を開けて、そいつを外へ出せ」

 隣室の兵士に命じた。

 窓の向こうでは、オズベリヒの指示を受けた兵士二人が敬礼した後、檻の錠を外して扉を開いた。兵士二人は即座に檻から離れ、ファニータの載るベッドの方へ移動する。そして手にした長銃を構え、銃口を檻の方へ向けた。

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