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メダイユ国物語

第5章 幕間 その二

「ユゲイアの追手の者か?」

 ウェンツェルは男に剣先を向けながら尋ねた。

「御意。貴方を捕らえることが私共の任務にございます」

「私はそう簡単には捕まらん」

 剣を構え直し、ウェンツェルは男に言う。

「貴方に勝ち目はございません。この周囲は我々が包囲しました。全員を相手になさるおつもりで?」

 ウェンツェルは周囲に目をやる。確かにこの男の言うとおり、かなりの大人数を連れて来ているようだ。

「かつての戦争終了後も、私共は武器の扱いや格闘など、あらゆる戦いの術を鍛錬して参りました。平和慣れした貴方がたとは比べ物になりません」

 男は抑揚のない声で語る。感情がまるでないのではと思うほどだ。

「お前たちに捕まって恥を晒すくらいなら、私はここで自決する」

 言いながら、ウェンツェルは剣を自身に向けた。

「マレーナ・イェンネフェルト姫」

 黒尽くめの男はひと言口にする。不意に許嫁の名前を聞かされ、ウェンツェルは動揺した。

「ラバーンの姫君にはもう会えなくてもよろしいと、そう仰る?」

 もう一度マレーナと会いたい――彼が今一番望んでいることである。

「くっ……」

 ウェンツェルは決死の覚悟をするにはまだ若すぎた。彼の心は激しく揺らいでいる。

 その場で長い時間考えた。そしてとうとう彼は決心した。

「分かった……投降する」

 そう言うと、彼は手にした剣を地面に投げ捨てた。そして両手を頭の後ろで組んで跪いた。相手に完全降伏の意思を示す姿勢である。

「賢明なご判断です」

 男はそう言いながら、背後の仲間に目配せで合図を送る。すぐに数人の兵士がウェンツェルの元へやってきて、彼を拘束した。

(マレーナ、また君に会えるのか?)

 ウェンツェルは夜空を見上げる。木々の隙間から覗く、蒼い月明かりが目に眩しかった。

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