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時給制ラヴァーズ

第7章 7.ヴァージンペーパー

「わからない」

 その大事な理由を、だけど慶人はいっそ潔いくらいきっぱりと告げた。わからない、と。

「一緒に住んでいるうちに、いつの間にか。最初はただ変わった奴だと思って、でもそれが面白いなって程度だった。でも一緒に生活してて、恋人らしく見せられるように色々考えて、そう見えるように行動しているうちに、胸の中に本当に恋愛感情が芽生えてるって気づいた。俺も、意外」

 その言葉どおり、慶人は肩をすくめてふっと笑う。
 それは、きっと俺も同じ。バイトで始めた恋人ごっこは、途中から普通に楽しくなって、バイトとかじゃなくて困っている慶人をなんとかしたいと俺が思い始めていた。だけどそれは最初と違って同情ではなく、言うなれば好意の始めのようなもので。

 ……ああ、そうか。慶人の気持ちが変わるのと同様、俺の気持ちも変わっていたのか。

「いつかはわからないけど、なにが原因かって言ったら確実にお前」
「え、俺? 俺なんにもしてないよ?」
「した。すごくした。だってお前変なんだもん」
「変って」
「俺が、自分の気持ちが勘違いかもしれないと冷静になろうとするたびに掻き乱して、もっと気持ちを強くさせて、そのくせ友達みたいにふるまったり、バイトだと強調してみたり、なのに惑わすような態度取ったり」
「自覚ない、んだけど」
「だろうな。もしかしてちょっと気持ちがあるのかも、と思って様子を窺っても雰囲気を作るのは流すし、でも意味深なことは言うし、マジで乱されっぱなし」

 慶人の言う俺が、まるで別人のことのようだ。

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