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時給制ラヴァーズ

第7章 7.ヴァージンペーパー

 だって俺はいたって普通に過ごしていたし、惑わすようなことなんか言ったつもりもない。
 そりゃ確かに遊園地の時は色々頑張ろうとしてから回ったけど、きっと慶人が言ってるのはそういうことじゃないんだろう。なにより慶人がそんなことを思っていたなんて少しも気づいていなかったんだから。

「なによりあの日」

 思い返そうにも心当たりが見当たらずに戸惑う俺の前で、慶人は少し声のトーンを落として目を伏せた。
 その意味はわかった。色んな道具が届いたあの日。その瞬間のことはよく覚えていなくても、あったことは忘れるはずがないから。

「暴走した俺のこと受け入れてくれて、それで、もしかしたらって思った」

 あの時、慶人は動揺して俺のことをほとんど呼んだことのない名字で呼び、死にそうな顔で謝ってきた。ただ俺はおぼろげな記憶しかなかったから、怒ったり気持ち悪がったり、そういう反応はしなかった。そう。本来なら逃げ出してもいいくらいの出来事を前にして、俺は受け入れたんだ。
 慶人もそんな風に理性がぶっ飛ぶようなことがあるんだ、と、変な理由で納得して、しかも二度目を俺から誘った。そんなの、よく考えなくたっておかしいのに。

「二回目、三回目って数を重ねて、お前がどういう気持ちで俺に抱かれているのか、ぶっちゃけると俺も本当はどういうつもりでお前としてるのか、はっきりした答えは出てなかった。というか、出しちゃいけない気がしてわざと誤魔化してた部分はある」
「性欲処理とか、そういうんじゃなかったんだ?」

 俺はそうではなかったけれど、慶人もまさかわからずにしていたとは。そんな感じはしなかったけど、それでも性欲発散くらいのものだろうなと納得しようとしていたってのに。
 慶人は俺の言葉になぜかぐっと詰まって、それから肩を落として視線を揺らがせた。

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