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時給制ラヴァーズ

第3章 3.うそつきデートの行方

「いいエピソードをありがとう」
「……確かに恋人同士だったらこのまま……っと、なんでもない。助けてくれてありがとう」

 俺のドジっぷりを慰めるためか、抱き合ったまま頭をぽんぽん叩かれて、慌てて離れた。恋人同士だったらこんな風に抱き合ったらキスするよなぁと呟きかけて、さっきの光景が蘇ったからだ。
 ちょっと唇が触れたくらいで動揺している自分が恥ずかしい。経験値の足りなさが如実に出てしまっている。
 とりあえず気をつけますと慶人から離れて、再び用心深く波打ち際に足を進めた。すでに夕日は一筋の光を残して落ちていて、足元が暗いせいで波がどこまで来るかわかりにくい。

「これじゃあ、恋人ごっこ出来ないね」
「水かけ合うやつ? 明るかったらやったのか?」
「……ごめん、想像して我ながらちょっと引いた」

 きゃっきゃとはしゃぎながら波打ち際で水を掛け合う男二人。
 自分で想像したその図のあまりのバカらしさに呆れてしまった。こんなの写真に撮って見せられたら、違う意味で心配になる。男同士以前に、色んなことが。
 でも、だったらここではどういう風に恋人っぽく写真を撮ろうか。

「ん」

 悩む俺の前に差し出された慶人の手。それですぐにピンと来た。人がいないのならちょっとぐらいいちゃついてる感じでもいいのか。
 とはいえ出来るのはこれくらいかと手を繋いで、それを見せ付けるように掲げて写真を撮る。
 公には出来ない関係の二人が、暗くなって誰もいない浜辺を、こっそり手を繋いで散歩する。うん、いいシチュエーションだ。
 俺がもっと美女だったら映画にでも出来た光景だろう。それならそれで、また厄介な話になるだろうけど。

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