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時給制ラヴァーズ

第4章 4.センターラインを越えて

「慶人、荷物ー。見てよこれ、『雑貨』なんだって!」

 そして数時間後、慶人の家に大きな段ボール箱が届いた。なにも書かれていないでかい段ボールに貼られた伝票の品名は『雑貨』。
 そんな風に書かれているけど、こんな大荷物が届く予定は一つしかない。この前ネットショッピングしたカップル用小道具一式だ。
 さっきの出来事がちらつかないように、わざと茶化すようなことを言いつつリビングにいる慶人の元へと運ぶと、そのまま開封することにした。
 さすがに開けもせずに置いておくと不審だし、なにも話さないでいるのは気まずい。

 ……実はと言うと、さっきのファミレスで気まずさに耐え切れず俺だけお酒を飲んでしまったのもテンションがおかしい理由の一つだったりする。
 慶人は運転があるから飲まなかったけれど、それはそれで気まずかったのか強めに勧められて、沈黙を誤魔化すために少々飲みすぎた。
 普段だったしないミスが多い辺り、どれだけ色んなことに動揺しているのか知れる。
 意外とハプニングに弱い人間なのかもしれない。

「うおーすっげー」
「ここまで来ると、ある意味壮観だな」

 さすがにこれには慶人も興味があったらしく、俺と同じように開けた箱の中を覗き込む。
 次々と箱から取り出し並べてみるけど、ちょっと調子に乗って無駄なものを買ってしまったかもしれないと、今さら後悔の念に襲われた。
 勢いであれもこれもとカートに放り込んでしまったけど、こうやって現物を見るとやけに生々しくて扱いに困る。

 当然だ。生々しいことをするためのものなんだから。
 でもやっぱり画面で見るのと実際に目の前にあるのとじゃ全然違う。
 特に見慣れた日常になっている慶人の家にこういうものがあると、そのギャップがより現実感を増すというか。

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