時給制ラヴァーズ
第5章 5.一歩進んで二歩下がる
それからしばらくは、かなりぎこちない生活を送った。
緊張感がある、というのともまたちょっと違う、とにかく俺が好きじゃないぴりぴりとした距離感を保つぎこちない毎日。それは本当に嫌なもので。
その理由は明確なのに慶人自身がその話題を避けるから、それ以上話が進まない。
俺が案外平気なのは、たぶんちゃんとした実感がないからだと思う。そして慶人がこんな状態なのは、意志と記憶があるから、なんだろう。
朝も会わない、学校で偶然会っても避けるし、夜ご飯だって一緒になることはない。だけど追い出されもしないし、冷たくされたり無視されるわけでもない。喋りはするけど当たり障りのないことしか言わない。探り合いの微妙な距離感。
……あんなに毎日楽しかったのに。
買い物したり作戦練ったり。趣味を知るためにお互い好きな映画を選んで見てみたり、得意な料理を作り合ってみたり。
普通の友達とは違う、濃密で特別な時間を過ごしてそれが楽しかった分、今の関係がしんどい。
そして、それゆえにただの居候になっている俺を追い出さない優しい慶人は、当然の如く結婚したら電話に悩まされていて。それをただ見ているのも焦れて嫌だ。
なによりあの夜のことを慶人が必要以上に気にして落ち込んでいるみたいだったから、そんな気にすることないのにって伝えたくて。