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時給制ラヴァーズ

第5章 5.一歩進んで二歩下がる


 次の時は、慶人から誘われた。
 一緒にテレビを見ていた時に「天」と呼ばれて、手が重なった。その触れ方がセクシャルに思えて「……もしかして、バイト?」と聞いたんだ。そしたら小さな逡巡の後に小さく頷かれた。だから、した。
 なぜと言われればうまく説明できないけど、断る理由がなかったというか、もし拒否した時に慶人が悲しい顔したらやだなと思ったというか。
 積極的に求めはしなかったけど、積極的に拒否もしなかったからその点ではずるいかもしれない。
 でも、主体性がないと言われればそれまでだけど、とにかく慶人が傷ついたり嫌な顔を見るのはイヤだったんだ。イケメンにはイケメンらしくかっこよくいてほしかったし、慶人の笑った顔の方が好きだったし。

 ……それからはなんとなく流れというか雰囲気でそうなることがしばしば。
 たとえば慶人のお母さんから電話があった時とか、映画を見ていて恋人同士がそういうことをしだした時とか。
 雰囲気を感じ取ってどちらからともなく誘ったり誘われたりそういう感じになったり。
 たぶんお互いにその理由は深く考えないようにしていたんだと思う。

 だけどある日、フェイクとして買ったはずのゴムを一箱使い切りそうになった時点でさすがにまずいと気づいた。
 わりと自覚のあるタイプの楽天家である俺でも、さすがに残りの一つを手に取った時に、俺たちやばくないか、と危機感を覚えた。
 いや、遅いのはわかっているし薄々はそう感じていたけれど、考えないようにしてたんだ。
 だってこういうのってもしかして、「セフレ」って言うんじゃないか? って気づいてしまったから。
 ただこれは言い訳みたいだけど、実際、お金は発生してない。
 誘い文句としては「バイト」という名目ではあるけど、その部分で金銭のやり取りが発生してしまったら、それこそ援交みたいになってしまうから。
 
 でも、だったら。
 この関係って、一体なんなんだろう?
 慶人は、どう考えているのかな。

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