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時給制ラヴァーズ

第5章 5.一歩進んで二歩下がる

「……えっとそれで、する?」

 基本的に考えるよりまず行動というか、迷ったら難しく考えるよりその時の気持ちで動いてしまう性格なんだ。その自覚はある。
 だからこそ、強引にでも今のピリピリした距離感を変えたくて一歩前に出た。それだけ。

「……」

 それに対しての慶人の反応はと言えば、相変わらずの眉間にしわを寄せた恐い顔。いつもよりもその感情は読みにくい。
 その顔のままの慶人がベッドに手をつきこちらへと乗り出してきたから、怒られるのかと思って身をすくめた、その瞬間。

「する」

 低く空気を震わせる音を俺の耳に吹き込んで、そのまま肩を押してきた。
 反応が遅れた俺をふわりと受け止めたのは、ベッドではなく背中に添えられた慶人の手。
 優しく、だけど有無を言わせず押し倒されて、遅れてきた緊張を意識するより先に慶人の唇が俺の首筋に触れた。それだけで意識がそこに持っていかれる。

「んっ」

 くすぐったいほどの丁寧さは、前ほどではなかったけれどそれでもそのおかげで痛みはなし。ドキドキとうるさい心臓の音に気を取られている間にどんどん進んで、あっという間に抜き差しならない状況に。……下ネタではなく。
 普段はクールで優しいけれど、やっぱり慶人もしっかりと男で、いざそうなると力強さは少し怖いくらい。
 熱っぽい瞳にぞくぞくするほどのオスの鋭さを宿らせていて、捕食される気分でその体にすがった。

「あっ……ん、んっ」

 揺さぶられるたびに体の芯からこみ上げるなにか。それはたぶん未知の快感で、それに浸りきるのはまだ無理だったから、荒い息で熱を逃がす。
 余裕なんか全然ない。
 慶人の方はどうかわからないけど、それでも慶人みたいなイケメンが、俺と同じように熱に浮かされているのがおかしくて、そしてなんだか愛おしかった。
 しょうがない。人間、根源的な気持ち良さには勝てない。

 結局最終的にはなにも考えられなくなって、意識が落ちていく感覚に身を任せた。
 なにかに似てると思ったけど、これ、ジェットコースターだ。
 
 ……なんだよ、慶人、ジェットコースター大得意じゃん。

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