時給制ラヴァーズ
第6章 6.雷鳴はまだ遠く
明確な答えがもらえたわけじゃないけれど、それでも話せたことで少し気が楽になったし、頑張る気も貰った。
やっぱりちゃんと話し合った方がいいよな。これからどうしていくか、今後の方針も含めてちゃんと話そう。
そうやって思えたのは良かったけど、話し込んでしまったことで次の講義に遅れそうだ。
適当な勘を頼りに、近道しようと普段は使わない建物と建物の間をすり抜け違う建物の裏に出て。
「……だから、付き合ってほしいんだけど」
そんな声にぶつかって、思わず足を止めた。
偶然通りかかった場所で行われていたのはまさかの告白現場。
しかも、他の誰でもない慶人が告白されているところだった。
人気のない場所に呼び出されたんだろう慶人と、ギャルっぽいけど可愛い女の子。そして思わず隠れてしまった俺。それも含めて、今時あるんだってくらいベタな少女マンガのワンシーンのようだ。
そういえば、バカみたいにモテるって言ってたっけ。きっとこんなのしょっちゅうなんだろう。
「悪いけど、無理」
「なんで? 付き合ってる子とかいるの?」
「……いや、いないけど」
にべもない慶人の答えに焦れたのか、今さらの確認をする相手の子。それにほんの少しの躊躇いの後慶人が答えて、なぜだか目の前が揺れた。
「付き合っている相手はいない」その言葉に、一瞬だけ息を飲んで、それから納得する。
そっか。俺とのことは親に向かっての嘘なんだから、他の人には言う必要ないのか。ていうか、下手にそんなこと言って男好きだって噂立てられても困るもんな。そりゃそうだ。
……わかっているのに、なんでそこはかとなくショックを受けているのだろう。
そりゃあ俺なんて、バイトの恋人だし、今なんか正直セフレ状態で、色んな意味で人には言えない関係だけど。
なんでかすごく複雑だ。慶人の当たり前の返答に、なぜこんなに打ちのめされた気持ちになるんだろう。
それでも、つれない慶人の態度に諦めたのか相手の子の気配がこっちに近づいてきたから、俺は足音を潜めたままそそくさと立ち去った。
なんだかすごくショックだった。