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時給制ラヴァーズ

第7章 7.ヴァージンペーパー

「ねー慶人」

 その日の夕飯の時、俺はふと思い出した今日のことを話題に乗せた。
 今日の夕飯は慶人お手製のパスタ。ウニのクリームパスタに大根とバジルのサラダ、コンソメスープなんてオシャレなメニューをぱぱっと作っちゃう辺り、しっかりと料理のモテスキルも持っている慶人だけど、大したもんじゃないと謙遜するところまで含めて完璧だ。
 しかも自分で作るものより俺が作るざっくりお手軽なメニューの方が好きだというんだからお世辞まで文句のつけようがない。

「今日さ、告白されてたでしょ」
「……ああ」

 パスタをくるくるとフォークに巻き、何気なさを装って聞いてみれば、慶人は微かに肩を揺らして驚いたそぶりを見せてから、それだけ答えた。
 その反応の薄さからいって、やっぱりいつものことなんだろうか。
 どうやら本当に城野の言ったとおり、当然のようにモテまくりらしい。まあ、顔だけで十分モテるのに、中身まで揃ってるんだから人に好かれるのは当然だ。そんなの、俺が一番知っているくらい。

「見るつもりじゃなかったんだけど、ちょうど出くわしちゃって」
「うん」

 俺がなにを言いたいのか、探るような相打ち。その優しい余裕がなぜだか胸をチクチクさせる。

「……恋人いるって言っちゃえば良かったのに」

 窺う視線を受けての軽口のつもりだったのに、なんだか恨みがましく響いたのが嫌な感じだ。
 この件で慶人が対象としているのは両親だけで、他の人に広める必要はない。むしろふりである俺のことが広まりなんかしたら困るから、あの子にも言う意味がないっていうのはわかってる。

 だからこんな風に言うつもりじゃなかったのに、なんでか俺の口から出た言葉はテンションが低めで自分でも驚く。
 そんな俺の様子を怪訝に思ったのか、慶人は軽く首を傾げて俺を見た。

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