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時給制ラヴァーズ

第7章 7.ヴァージンペーパー

「ちょっと待って。ちゃんとする」

 乱れた身なりを正した後、俺の背に手を入れて俺まで起こすと、向かい合わせに座らせた。
 今までとは違う種類の真剣さに、こちらまで服装と姿勢を正してしまう。

「本当はこんなタイミングで言うことじゃないと思うけど、……いや逆に今こそ言うべきなのかもな」

 大きく息を吸い、ゆっくり吐くその呼吸だけで慶人が緊張しているのがわかる。
 さっきまでの雰囲気が一転、張りつめた空気が俺にまで伝わってきて体が硬くなった。

「『ふり』だけの恋人関係は解消する」
「バイトは、終わり?」
「バイトじゃなくて、正式に付き合ってほしい。お前が好きだ」

 恐いくらいの真面目な顔のまま硬い声での告白に、まばたき一つ。

「付き合うって……俺、男だよ」
「知ってる。十分に」

 確信を持って言う慶人に、そりゃそうだと頷く。だからこそ俺はここにいるんだし、だからこそ困っているんだから。

「でも、慶人、普通に彼女いたって言ってたし、俺、男だよ」
「わかってるよ。……そうだな、今まで男を好きになったことは一度もない。今までは」

 強調するように繰り返された言葉に、思わず自分を見るように視線を落とす。
 自覚がない。慶人を好きにさせるようなことをした自覚も、好きになられる自覚も。真似事から錯覚しているという事実であった方が、まだ納得出来るくらいに。

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