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終焉のアルファベット

第3章 忌避される才能

炎天下の公園のベンチ、老齢の四人組アルド、ロッコ、ジャンカルロ、フェデリコが揃って舌戦を繰り広げていた。議論の対象となっていたのは、革新的で挑発的な青年アーティスト、ヴィンチェンツォ・ディアモンディだ。最初に口を開いたのは頭を振りながら怒りに顔を赤く染めていたロッコだ。
「見てみな、あの黒髪の小僧、ヴィンチェンツォ・ディアモンディだ。一体何考えてんだ、あいつは! なんであんなに字幅を変えて、角度をずらすんだ。伝統的なアルファベットを故意に捻じ曲げるなんて...何が楽しくてやってんだ? 千年以上もの間、大切に守り続けてきたローマの書法を、ただひとりでに台無しにしているんだから。」ジャンカルロがその言葉に火を付けるように乗っかった。「その通りだ、ロッコ。我々がここまで厳格に守り伝えてきた筆一本の調和と秩序が、あの小僧のわがままな新たな価値観によって蔑ろにされている。彼の作品は古来からの意味を捨てて、ただの装飾にしてしまっているんだ。」
一方で、アルドは怒りに顔を膨らませながら、さらに話を深めた。
「あのガキは、神殿を壊すかのように伝統を踏みにじっている。見ろ、その乱暴な書体。それこそが、彼が全てを覆そうとしている証拠だ。」
静かに聞いていたフェデリコがついに口を開いた。
「それは言い過ぎだ。彼はただ新しいものを探しているだけだ。だが、その手法が我々の理解を超えているだけだ。」
彼の言葉に、他の三人は鼻を鳴らしながら反論した。
「それが問題なんだよ、フェデリコ。あの小僧のやってることは、何もかもぶち壊すための挑戦だろ。伝統を守るべきなのに。」
この瞬間、彼らの議論はより白熱し、ヴィンチェンツォへの批判が一つに結束した。彼らが何より重んじる安定と秩序が、あの小僧によって混乱の渦に飲み込まれていくと感じ、その結果としてヴィンチェンツォへの怒りが増幅したのだ。

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