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時給制ラヴァーズその後の短編

第2章 まつり浴衣は夏の華

「え、あんず飴の方がダメだったの?」
「……そういうことじゃなく、いや、それもそうだけど、なんというかお前の場合、無自覚なのが恐いんだよ。いい加減自覚しろ」
「そんなこと言われても、慶人がどんなタイミングで発情するかなんてわかんないって」

 チョコバナナよりあんず飴に興奮するなんてポイント、わかるわけがない。
 そもそも俺相手にそういうことを思うこと自体が想像外なんだから。

「……そりゃ、確かに天に関して俺の理性はだいぶ緩いけど」
「そうそう。俺に対してはすごく感覚が変だよね、慶人。ていうかちょっと変態っぽい?」
「……ほう?」

 たとえば通りすがりの女の子に胸や足を見たり、テレビや雑誌を見て誰がタイプ、なんてのは全然しないくせに、どうして俺相手になるとそう簡単に気持ちが盛り上がってしまうのか。
 俺によく変だと言っていた慶人だけど、案外慶人の方が変わり者なんじゃないと笑おうとして、凍り付いた。
 「変態」という言葉が気に障ったんだろうか。それともまた別のポイントだろうか。
 慶人が静かに目を細めた瞬間、辺りの気温が下がった気がした。いや、クーラーは十分効いているから、冷えたのは気温じゃなく、俺の背筋。

「そうだよな。普通は浴衣の男相手に、二回目しようなんて思わないもんな」
「あ、え……?」

 ……どうやらあれほど燃え盛った炎は、まだちゃんと鎮火していなかったらしい。すべて発散されて元のクールさが戻ってきたのかと思っていたけれど、種火がまだ残っていたようだ。
 そこに俺が燃えるものを渡した。それがなにかはわからないけれど、たぶんよく燃えるものなんだろう。
 とてもスマートに、だけど有無を言わせぬ強さで押し倒されて、あっという間に天井が見えた。そしてそこに被さる慶人の顔は、変に優しくて。

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