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時給制ラヴァーズその後の短編

第2章 まつり浴衣は夏の華

「んー、でもたとえばさ、浴衣を着た慶人はもちろんかっこいいよ? でもそれは浴衣だからってわけじゃなくて、なに着てても慶人はいつもかっこいいし、俺は好きって思うわけで。でも慶人がその中でも「浴衣を着てる俺がいい」って思うってことは、やっぱり慶人は浴衣フェチってことじゃない?」

 別に恥ずかしいことじゃないんだから認めていいんだよと受け入れる気持ちで本音を口にすれば、慶人はなぜか驚いたように目を丸めた。
 そしてぱちりぱちりとまばたき二回すると、なんとも言えない表情の歪め方をした。驚きと困惑と笑顔を混ぜきらないで表したような、複雑な顔。

「……お前ってもしかして、俺のことすごく好き?」
「ん? 好きだけど、どうしてこのタイミング?」
「なんというか、お前ってすごく鈍い。鈍すぎる。天然でやってんだったら凶悪すぎ。むしろ悪党」
「なに悪党って。急にどういう罪の被せ方なの」

 なにがどうしてそうなったのか、濡れタオルならぬ濡れ衣を着せられた。
 そりゃ慶人のことは好きだけど、どうして今確かめるんだ?
 用済みのほかほかタオルをベッドサイドのテーブルに置き、代わりに俺の手を取った慶人は、まるで騎士がするようにオモチャの指輪に唇を寄せる。その仕草はキザだけど似合っていて、そしてとても愛おしげで。

「本当に、お前って奴は……」
「なに……いいいいっ?!」

 そんな風に優しい顔をしていたと思ったら両頬を両手で引っ張られて、びっくりして変な声が出た。
 愛情を確かめられたかと思ったら急に罪を着せられて、優しくされたかと思ったらいじめられた。なにがどうなっているんだ。

「その格好であれだけ煽られて、我慢出来るわけないだろ。人の理性試すような真似ばっかりしやがって」
「えー、でもチョコバナナはダメかなって思ったからあんず飴にしたのとか、めちゃくちゃナイスプレイだと思うんだけど」
「そこに気遣って、どうしてああなるんだ……」

 引っ張られた頬をさすりながら、隠していた行動の理由を語れば、なんだかひどくがっかりしたように肩を落とされた。

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