テキストサイズ

時給制ラヴァーズその後の短編

第1章 短冊に想いを込めて

「ううん、俺ら通じ合っちゃってるなーと思って」

 それでも声に笑みが混じっていたから、慶人は茶化されたと思ったかもしれない。これは後でもう少しちゃんと説明をしておこう。俺も同じように、これを書いている慶人の姿が見えたんだって。
 この、なんとなく、でしかない口で言うのは難しい感覚が、お互い視覚と聴覚で微妙に違うってのが俺たちの面白いところだと思う。でもその話は後。この楽しさは、今は俺だけの秘密。

『あの言葉、俺が見ることをわかってて書いたのか?』
「いや、彦星と織姫に宣言しておこうかなって。こういうのって断言するのが大事ってどっかで見た気がしたから」
『宣言……』
「もちろんさ、お金が欲しいとかいい仕事が欲しいとかそういう願い事はあるよ? でもそういうのって、自分で叶えることであって人に願うことじゃないかなって。だから今一番強く思うことを、空の上のイチャイチャカップルに宣言してみた」

 実際のところ、なにを書こうと迷った時に出てきたのがこれだったから素直に書いただけだけど。
 そんな俺の言葉をどう取ったのか、慶人は小さく息をついた後に『好きだよ、天』と優しい声で告げた。

「ん、なに急に?」
『いや、それより早く帰っておいで。竹の組み立ては終わってるから』
「竹!? なにそれ!? すぐ帰る!」

 そうめんに竹と言われればわくわくするイベントしか思いつかなくて、俺は笹とスーパーを後にして急いで帰路に就いた。
 七夕がこんなにウキウキするものだなんて思わなかった。今日は微妙な曇り空だけど、慶人のおかげでまた一つ楽しい思い出を作れる。
 だから慶人が短冊に書いたことは、もうとっくに叶ってるよってそのうち伝えよう。
 むしろ俺は慶人に喜ばされてばっかりだから、少しは返せることがあるといいんだけど。


 ……慶人が、俺の短冊の写真をトーク画面の背景にするぐらい喜んでいたと知るのはそれから少し先の話。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ