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いい女 惜別…

第1章 惜別…

 ②

「いや、アンタ、それ、ヤバいから…」

 唯一の親友がそう云ってきた…

「もうさぁ、絶対にヤバいからぁ」


 本当は分かっていた…

「えっとぉ、亡くなって何年だっけぇ?…」

「来春で、7回忌…」

「…てことは、私達はぁ?…」

「間もなく37歳…かな…」

「だよねぇアラフォーだよねぇ…」

「うん…」

「それが何だってぇ?…
 ヘビメタを聴きながら首都高速を飛ばしていると…
 亡き夫とセックスしてるみたいってぇ?…」

「あ、声が大きいから…」
 ここはオフィス街の昼間のカフェ…

「いい歳したさぁ…
 しかも亡くなって間もなく7年も経つのにさぁ…
 それもアンタみたいないい女がさぁ…」

「だからぁ、声が大きいから…」
 周りの席のお客さんが笑いながらわたし達を見てきていた。

「そんなクルマで…セックスだなんて…」
 斜め前方のお客さんが驚いた顔をして振り向いてきた。

「ち、ちょっと、止めてよ、車上プレイみたいな言い方してぇ」
 慌てて友達を制する。

「あぁ、ある意味車上プレイの方が、相手がいるからまだマシかもねぇ」

「もぉ…」
 恥ずかしくて思わず下を向いてしまう。

「あっ、そうだ、そうよっ」

「え…」

「クルマよ、クルマ…
 あんな実用的じゃない、旦那の思いがギッシリと詰まってるクルマがいけないんだわ」 

「え…」

「あんなクルマ手放しちゃいなよ…
 しかもかなり、ボロボロでしょうが…」

 確かに古くてボロボロで…
 すぐにあちこちの電気系統が故障してはいた。

「で、でもぉ…」

 でも…

 あの…
『アルファロメオスパイダーヴェローチェ』は…

 唯一の彼との思い出の遺品なのである…

「もちろん彼との思い出のクルマなのはわたしだって分かってるわよ…」

 この友達とはかれこれ小学生時代からの付き合いであり、何でも話せ、わたしを理解してくれている…
 唯一無二の親友なのだ。

 だから、彼女の云っている意味は分かるし…
 わたしも考えた事は何度となくあった。
 
「でもさぁ、このまま一生持ってられる訳がないんだからさぁ…」

 それもよく分かっている…

「この際さぁ、思い切って手放しちゃってさぁ…
 一度リセットする…
 いや、7回忌だし、リセットする時なんじゃないのかなぁ…」


 そうかもしれない…



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