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いい女 惜別…

第1章 惜別…

 ⑦

 その男はわたしを一瞥し」
「うーん、なるほどなぁ…」
 と、呟いてきたのだ。

「え…」

 なんだ、なるほどって?…

「うーん、わかるなぁ…
 スパイダーかぁ…
 堪らないかもなぁ…」

「え、な、なに?…」

「しかも、長い髪かぁ…」

 するとその男の目が宙を泳ぎ、何かを想像し、脳裏に想い浮かべているような感じになる。

「いい女の条件に完璧ですね…」

「え、ちょっと…」

「あ、いや、さすが、元旦那さんも分かってらっしゃった」

 わたしはその男の言っている意味がよく分からない…


 すると…
「そうなのよぉ、もう、まだまだ元旦那の想いに縛られちゃってさぁ…
 ねぇ、何か新しいクルマもさぁ、紹介してあげてよぉ…」
 と、親友の彼女が横から言ってきた。

 そして…
 クルマもの「も」って言っていた。

 そう、これは彼女が間に入った紹介…
 つまりは、お見合いなのだから。

「じゃあさ、わたしは邪魔だから消えるからぁ…
 後はよろしくねぇ…」

「え、あっ、ち、ちょっとぉ…」

 だが、彼女は疾風の如くに去ってしまった…

 そしてわたしと彼の二人になった…


「あ、はい…え…と…
 どこが壊れたんですか?」
 
「エアコンのコンプレッサーが…」
 そう言うと…

「あちゃぁ、それはマズいなぁ…
 かなり、いや、相当高くなりますよぉ…」

 やはりそうか…

「うん、だから、もういいかなぁって…」

「え…、もういいんですか?」

「うん…もう…それに…
 そろそろ髪も切りたいしさぁ…」

 わたしはそう呟いた…


「え、か、髪も…
 き、切っちゃうんですか?」

「うん、スパイダーとお別れなら、短く切りたいかなぁって…」

「あ、じ、じゃあ…」
 すると彼はそう呟き、そして私の目をジッと見つめてくる。

 あら、キレイな目をしてる…

 悪い人には見えない…

 そういえば、ようやく最近心の整理がついた…
 って云っていたなぁ。

「じゃあ、いい女の条件からの別れ…
 そしてスパイダーとの惜別ですね…」

「え…」

 別れ…

 惜別…

 この男も…

 彼は…

 分かっているみたい…




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