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アパート

第8章 人間もよう(2)

2階に行ったのは沙耶香に間違いない。

水色の車がないのに女性の階段を上がる足音がするはずがないからだ。このアパートは、駅からも遠く急な坂道を随分登らないと辿り着かないという立地の悪さのため、わりと雰囲気が良いわりに家賃が安い。こんなところに車があるにも関わらず徒歩で来る女性はいない。

チャラい男の車に一緒に乗ってきた可能性もない。男の車は、ずっと前からとめたままになっていたからだ。

そうか、最近外で沙耶香と男の話し声が聞こえなくなったのは、会っていないのではなく、たぶん男の部屋で会っているからだ。ということは、僕にも言った「アソコを見せて」とかの段階はとっくに過ぎており、言い方は悪いが、沙耶香の方から男の部屋にエッチするために行っているということだと思う。部屋に行くということはそういうことだ。

そうなると色々と自分の場合と重ね合わせて思うことがある。

カウンセリングの先生には許されているのだろうか?アパートの管理人のおじさんは知っているのだろうか?

僕の場合、そういう関係になる前におじさんが出てきて、ストップがかかったのに、話して許されたとは考えにくい。ということは、そういう段階を経る前にエッチしてしまったんだと思う。まだそれらの人達に何も話さないうちに…。


おそらく女性経験の多そうなあの男のことだ。沙耶香が何を言っても強引に抱きしめて逃さなければ簡単にオチることは分かっていたんだと思う。女性経験の少ない僕にも、沙耶香のどことなく寂しそうな雰囲気から、そうすればオチるんだろうなと思わない訳ではなかったからだ。でも、僕にはそれはできなかった。あくまで順を追って付き合いたかったから…。でも、やりたいだけの男なら、そんな事は考えないだろう!正直、ヤラレタという怒りに似た気持ちと、「見せて!」と言われたときに見せていれば展開は変わったかもしれないという後悔の念がこみ上げてきた。

ただそれでも僕の場合は、そこまでの展開にはならなかったのかもしれない。例え見せたとしても、その後順を追って沙耶香が先生に話してという展開にはなったんだと思う。

そう考えると、やっぱりヤリたいだけの男の方が人生思い通りになるのかもしれない…。

と自分の性格が残念に思えた。

こうしている今も、2階では…と思うと今夜は寝られそうにない。
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