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デリヘル物語

第2章 take2



「違う!これは涙なんかじゃない。ただの――け、結露だ。それに別にこの人の為に、とかじゃなくて……ただ僕はやめて……」


「んっ、あんたそう言えば……」彼女がふと何かを思い出した様子で僕を見た。女の眉間には深いしわがよっている。


「な、なんだよ。今度は僕を殴るのかよ、その人みたいに」僕はとっさに身構えた。


「坊や、あんたさっき、あたしの事をあけみさんと呼んだね……。なぜだ、なぜあたしの源氏名を知っている?あんたと会ったのは今日が初めてのはずだ」彼女はやはり訝しげに僕を見ている。


「えっ……。そ、それは……」


僕はその時、混乱し過ぎていたのか、とっさにでたらめな事を口走っていた。


「じ、実は、僕は、ずっと前からあなたを知っているんだ。だって僕はあなたのファンだから。それも、あなただけのファン――つまり、オンリーファン――」


そして……その時、ほんのつかの間だった。なぜ、そうなったのかは自分でもわからなかったし、今だにその謎は解けていない。でも、かつての自分を、あの頃の――『鬼畜やろう高橋』と言う異名を馳せていた頃の、自分を取り戻したんだ。


「それにあけみさん、あなたの事は僕が守るから――だから、もうやめよ、人を傷つけるのは……。あなたのその拳は、そんな使い方をするためにあるわけじゃないだろ」僕はそう言って、彼女の手を取ると、両手で優しく包みこんだんだ。


「ふえっ……」


その瞬間、彼女の頬がほんの少しだけ赤く染まったようなそんな気がした。でも、それはすぐに僕の勘違いか、或いは僕の潜在意識の中の願望がそのように見せているだけだ、とそう思った。


「あ、あたしのファンだと……ふざけんな、ガキのくせに……。あんたがあたしのファンを名乗るなんて、139億光年早いわ……」そう言って、彼女は僕からさっと視線を逸らすと、中年男に近づき、さらに馬乗りになると胸ぐらを掴んで「こら田口、いいかげんに起きろや」そう言って、彼の頬をペシペシと往復で叩き始めた。


「ビッグバンよりも前じゃないかよ、138億光年って……。そんなことより、さっきから僕の事をガキ呼ばわりしてるけど、そんなに年変わんないじゃないか……僕達って」僕は彼女に向かって言った。


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