テキストサイズ

デリヘル物語

第5章 take4.1〜



「うはははっ……」


僕がそこまで喋ると突然、谷崎が笑いだした。だからその時、彼は気でも触れてしまったんじゃないか、ってそう思ったんだ。


でも、それは僕の誤解だった、とすぐにわかった。そしてその時一瞬彼の頬の上の方がダウンライトの反射で光っているように見えた。


「そう……だったね、高橋くん」そう言って、谷崎はいつもの笑顔を僕に向けた。「いやぁ、俺とした事がすっかり忘れていたよ」


「なっ、なにをですか?」谷崎を不思議そうに見ながら僕は尋ねた。彼の言葉の意味がちっともわからなかったからだ。


「そう言えば、まったく同じような事を以前に言われた事があってね……。ついそれを忘れていたよ」


「同じ事を……って、誰にですか?」


「まあ、とにかく高橋くん、これで二度目になるな、きみに救われたのは……」


谷崎がそう答えるのと同時に、ピピピピピピピピピピピピピピッ……と彼の腕時計のようなものからアラームがなり出した。


谷崎はとっさにそれを弄りはじめた。


彼につられて僕も時計を見た。


『21:02』


ループは止まった――のか?


「いや、ほんの少しだけ時間が短くなっているだけだ」と谷崎は言った。


「えっ、じゃあ……」


「ああ、どうやら最悪の可能性に向かっているみたいだな、俺達は……」と谷崎が険しい顔をして言った。


僕はゴクリと息を飲み込んだ。「て事は、このままループがゼロになってしまって、それから……」


「いや、でも、そうならないようにする方法も無いこともない」谷崎は僕を見た。その彼の瞳にわずかに光が宿っている。


「えっ、なにか方法でもあるんすか?」


「ああ、このループを終わらせればいいのさ」


「でも、どうやって……?」


「そうだな……俺が元いた場所に戻るか、或いは……」


「それは元の世界、ってことですか?」


「まあ、そう言う事だ」


「ところで、谷崎さんは、そもそもがどうやってこの世界に来たんすか?――と言うか、あなたがいた世界って……そう言えば、ちょっと前に、時空が違うって言ってましたけど、この世界とどう違うんですか?」


「高橋くん、俺はね――およそ三十年後から来たんだよ……この世界によく似た世界のね」


ストーリーメニュー

TOPTOPへ