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デリヘル物語

第1章 初めてのおつかいならぬ初めてのデリヘル




「え、高橋さんですよね~。表札も高橋さんだし――部屋の番号も203だからやっぱりここ、高橋さんの部屋じゃないっすか〜」僕の心境を知ってか知らずか、中年男はなおも喋り続けた。「せっかく当店いち押しのあけみさんをお連れしたんですからキャンセルなんてやめてくださいよ〜。たっぷりサービスしますよ――あ、もちろん僕じゃなくてあけみさんが、いひひひ……」


その時、隣の部屋からなにやらざわついているような物音が聴こえてきて、そこでふと僕は思い出したんだ、この部屋の壁がコンドームに例えるなら『薄ピタ』程度だって事を。だから、扉を開ける以外に、他に選択肢など無かった。


「あの――もう少し声小さめでお願いします。もう9時過ぎてるんですから」僕は扉を開けると、右腕の時計を見ながら中年のインポやろうにそういった。


「はい。わかりましたよ、高橋さん!」


「それと、さっきから――名前呼ぶのやめてもらえませんか」


「了解です、高橋さん!」男はそう言って右の脇に抱えていたセカンドバッグのようなものから、伝票のようなものを取り出した。「あの、高橋さん、今夜のコースなんですけど――お、ラッキーですよ、高橋さん」


「な、何がですか?」ため息が出そうなのをなんとかこらえて僕は尋ねた。


「ななな、なんと今日は花のフライデーなので60分コースですと、消費税込みでちょうど一万五千円になります、高橋さん」


僕はポケットから財布を取り出すと、さらにその中から男に提示された額のお札を取り出した。「あの、まだ声が大きいんで、あともう少しだけ声のボリューム下げてくれませんか、こんな時間なんで……」


僕は控えめにそう言ったが、先程から目の前にいる男の声のボリュームは1ミクロンたりとも下がっていなかった。


「了解です。あ、高橋さん……」そう言って男はセカンドバッグから今度はなにやら黒くて大きな財布……? の、ようなものを取り出すと「クーポン券などお持ちではなかったですか?」と言った。


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