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お題小説 labyrinth(心の迷宮)

第1章 ラビリンス(labyrinth)

 16

「大丈夫?、碧(みどり)姉さん…」
 突然、彼がわたしの名前を呼んできたのだ。

「えっ、な、なんで…」

 なんでわたしの名前を知ってるの?…

 その事実の指し示す意味の衝撃に、更にわたしは狼狽えてしまう。

 わたし達は、本当に双子なの?…


「母親がね、亡くなる直前にね…」

…………実はオレは双子で、姉がいて、父親と離婚の時に離れ離れになったんだって…
 そして姉の名前は『碧(みどり)』だって…
 オレと同じホクロが反対側にあるって…
 二卵性双生児だけど血液型は同じだって…
 そして父親と祖母と暮らしているはずだって…
 まぁ、だいたいそんな事を突然云い残してさ、死んじゃったんだよね…………

「え…そ、そうなん…だ……」
 彼は、いや、弟らしい彼はそんな事をどちらかというとあっけらかんと明るく言ってきたのだ。

「でね、オレの名前は『蒼』あおい…」

 なんかその名前を聞いた記憶があるような…

 そしてその名前の響きになんとなく懐かしさを感じ…

「あ、お、い…」
 
 あおい、蒼…と、脳裏でその名前を巡らせていく。

 するとその刹那…

 チリリン、チリン、チリリン、チリン…
 チリリン、チリン、チリリン、チリン…

 突然、脳裏にあの風鈴の鈴の音が鳴り響き…

「え、あっ、あああっ……」

 あの公園が…
 夢に出てくるあの真夏の公園の風景が…
 まるでフラッシュバックの様に…

 そしてあの時の風景が、いや、映像が、まるで映画の如くに流れ、脳裏いっぱいに溢れてきたのである。

「え、あ、あぁ、そ、そんな…」

 その風景は、いや、映像はやはり、なんとなく思っていた通りの母親との最後の別れを意味していたのだ…

「えぇ、あぁ、そ、そんなぁ、そうなの、あぁぁ…」

 そして涙が自然と溢れてくる…


…………あの3歳の夏、わたしは母親と公園の砂場で遊んでいたんだ…
 そう、母親と二人で…

 そして、わたしは夢中になって砂を掬い、山に盛り上げていると…
『じゃあね…み、碧ちゃん…さようなら…』
 後ろから、そんな母親の小さな涙声が微かに聞こえてきた。

『……え?……』

 だが、そんな不意の母親の言葉を、まだ3歳のわたしには理解できなかったみたいで、わたしは夢中になって砂場で遊んでいたのだ…

 母親との最後のお別れなのに…

 

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