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お題小説 labyrinth(心の迷宮)

第1章 ラビリンス(labyrinth)

 17
 
 わたしは母親との最後のお別れだなんて思いもせずに、夢中になって砂場で遊んでいたのだった…

 そして気付いた時には母親の姿はとうに消えていて、わたしはあの夢のように狼狽え迷子になったのだ。

「あ、え…」

 だが、記憶の迷宮のウネリにのまれてしまっている今…
 
「あ、じゃ、も、もしかして?」
 ある思いが浮かび上り、ハッとして、彼、いや、弟、ううん…
 わたしは蒼の顔を見た。

 すると蒼は…
「うん…多分、碧姉さんの思っている通りだと思うよ」
 と、確信したような顔で呟いてくる。

「え、あ、そ、そうなの?」
 もうそんな、わたしの想いが蒼に分かるという不思議さは感じなくなっていた…
 だってわたし達は双子なんだから、だからお互いの想いや考えは自然と伝わるはずだから、いや、そうだと思えてきていたのだ。

 そして…
「うん、そう、多分、いや、オレもあの公園に居たはず…
 それでオレは父親と最後の別れを…」
 と、蒼が言ってきた。

「うん…そうね、そうに違いないわ…」

 だって今、わたしの記憶には、いや、あの夢の風景には…
 わたしは迷子になったわけではなく、父親と手を繋いでいる情景が浮かんできていたから。

 そして、おそらく、弟の蒼の脳裏にも、母親と手を繋いでいる情景が浮かんでいるはずなのだ…

「きっとさ、オレも姉さんもさ、幼いながらも両親の離婚という事実をさ、訳は分からないままにもなんとなく理解した…
 いや、心の中に封印しちゃったんじゃないのかなぁ…」
 と、蒼が言ってきた。

「うん…そうなのかもしれない」

 だってわたしは祖母からは…
『本当に碧はママの事は訊いてこなかった不思議な子だったよ…』
 と、昔からよく云われてきていたから。

 おそらく幼いながらも、色々と考え、そして訳は分からないままに、心の奥深くにしまった、いや、封印したんだと思う…
 だってわたしは母親がいないという事に、今の今まで、なぜか考えようとはしてこなかったのだから。

 そして、今、この目の前にいる弟と言ってくる蒼も同じだったんだなと、なん
となく理解できていた…
 いや、双子だからきっとそうなんだろうと自然に思えていた。

 それに…
 もう、双子だという事実を疑っては、いや、信じていたから。

 だって…


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