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お題小説 labyrinth(心の迷宮)

第1章 ラビリンス(labyrinth)

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 またあの夢を…
 それは多分3歳の頃の夏。

 公園の砂場で遊んでいる時、ふと気付くと母親の姿が無く、慌てて辺りを見回し必死に母親の姿を探し、そしてパニックになり周りを泣き叫びながら走り回っていく…
 やがてすぐに力尽き、泣きじゃくりながらしゃがみ込むと、そんな真夏の微かなそよ風に揺れているであろう風鈴の音色が遠くから聞こえてくるという…

 わたしはまるで映画やドラマのような、そう、そんな抽象的な風景の映えるワンシーンの夢を子供の頃からずっと、そして何度となく見てきていたのだ。

 また、あの夢を見た…

「ふうぅ……」
 
 あの夢の中のその風鈴の音色が…
 まるでわたしを心の中の迷宮に堕としていく誘いの様であり…
 そんなゆっくりと静かな風鈴の音色がいつまでも耳の奥に残り、心をザワザワと騒めかせてきていた。

 そしてわたしはその夢のせいの寝汗によるカラダの不快感に悪寒を感じながら、ふと、ベッドの隣を見る。

 あ…

 隣には男が寝ていた…

 あ、そうか、そうだった…

 隣の男はあの夢のイヤな余韻を引きずっているわたしとは対照的に、スヤスヤと穏やかな寝息を立てながらぐっすりと眠っていた…
 そしてわたしはこの男の姿を見つめながら、今夜の、いや、ついさっきまでの、この男に抱かれたセックスの事を思い返していた。

 そんなこの男とのセックスは…
 今まで感じた事のないくらいの激しく強い快感を、いや、まるでエクスタシーといえる程の深い絶頂感を感じたセックスといえたのだ。

 それは…
 蕩ける…
 溶ける…
 融ける…
 という表現が正にピッタリなセックスであった。

 ましてやこの男とは今夜が初めて、いや、初対面であったのにも関わらずにこんな快感、エクスタシー、絶頂感をわたしに感じさせてくれたのだが、それはあり得ないこと…

 なぜなら、ただでさえ感度が良いとはいえないこのわたしが、ああまで感じてしまったなんて…
 あり得ないのだ。

 なんでなんだろう?

 だから…
 またあの夢を見てしまったのだろうか?

 あの夢を見る夜は決まって心が揺れ、騒ついたりした夜…

 そして今夜はあり得ないほどのセックスの快感を感じた夜だからなのか?

 だからあの夢を見てしまったのか?

 あり得ないほどの快感のせいであの夢を見たのだろうか…



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