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自殺紳士

第15章 Vol.15:空っぽの部屋

【空っぽの部屋】

35歳で、妻と別れることになった。
原因は、彼女の不倫だった。

妻の不倫相手は、彼女の仕事先の上司だった。
彼女の仕事は医療事務
つまり相手は、医師だった。

確かに、あいつの変化に気づかなかった。
  医院の受付時間が伸びたから、という言葉を鵜呑みにした。
確かに、収入は圧倒的に負けている。
  俺はしがない中小企業の営業職で、伸びしろだってたかが知れている。

上司である医師から、海外の学会発表に同行するように言われた、と彼女が言った時、
おかしいと思うべきだった。

ある日、スマホにその医師からメールが来たのを偶然見つけた。
その着信ポップアップがたまたま目に入らなければ、
  俺は多分、未だに二人の関係に気づくことはなかっただろう。

彼女が娘を連れて家を出たのは、
 俺が二人の関係を問い詰めてから、たったの1週間後のことだった。

あとに残ったのは、がらんとしたマンションの部屋。
クローゼットには俺のスーツが数着、下着と、普段着が少し。
邪魔だからと置いていった冷蔵庫には、ビールが3本、入ってるだけだった。

苦い酒を呷る。
握る手に力が入って、缶は俺の手の形に歪んだ。

机の上には真新しいロープ

それを見つめて、俺は、
最後と決めたビールを一気に呷る。
苦い味が胃の腑を満たした。

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