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悪いオンナ…2

第1章 【美大生の僕は魅力溢れる彼女に心奪われて…】






「見ても良いけど面白くも何ともないよ?」



「でも見たい、ガクがどんなの描いてるのか興味あるから」



そんな事、誰にも言われた事ないよ
長谷川さんに言われるだけで心臓が煩い
長い髪を耳に掛けながらページを捲る
細くて華奢な肩
僕の服がオシャレに見えてしまう
僕が着たら、ただのダサい部屋着なのに



「凄い……独特なタッチだね、油絵コースだったっけ?」



「うん……」



壁に立て掛けていた大きなキャンバス



「もしかしてコレ……完成してる?」



「え、あぁ、うん、去年、入賞したやつだけど」



「え、見たい、入賞?すごーい」



惜しくも大賞にはならなかったけどね
被せていた布を取って正面に向けてあげると
「すごっ…」から暫く喋らなくなった
油絵で黒いキャンバスに天使の羽根、片方だけを描いた
8ヶ月費やして取り掛かったんだ
艶や濡れ感を出すのに何回も描き直した



沈黙が続いて、チラッと見たら泣いているからびっくりした
え?え?泣く要素が何処にあった?
ポロリ…とこぼれ落ちた涙を拭ってようやく口を開いてくれた事



「これじゃ、飛びたくても飛べないね……なんか、どんな想いでガクが描いたのかはわからないけど、この作品の背景が自分と被ってちょっと胸がいっぱい…っ」



最後なんて声が上擦って溢れ出してるじゃないか
慌ててティッシュを渡したけど、僕だって胸がいっぱいだよ
だって僕が描いた理由は僕そのものな気がしたから……
飛びたくても、片方しか翼がないから飛べないんだ
そう補足説明しようとする前に全部持ってかれちゃうんだもん



泣かないでよ、僕も泣いちゃうだろ
凄いな、とか、上手いな、とかは散々言われてきたけど
僕の作品でこんな感受性豊かな反応をした人は初めてだから






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