テキストサイズ

キセキ

第3章 Vol.3〜雨の診察室

「母がお世話になりました。
 実は、母は先日、亡くなりました。
 天寿を全うしたと思います。」

それから、その男性は昔語りを始めた。

ーボクが先生に初めて会ったのは5歳位のことでした。
 その頃、母はずっと父を怒鳴っていました。
 目に見えない何かと会話をしていました。
 時折、ボクに焼けた火箸を押し付けようとし、
 父と押し合いの喧嘩になりました。
 父は母を先生のところに連れてきました。
 ちょうど、今日のような小雨の降る日でした。

ー先生は、母と話しました。
 母は髪の毛もろくに手入れせず、
  化粧もせず、ひどい顔をしていました。
 時折急に大声を出しました。
 でも、先生は真剣に母の話を聞きました。
 それから、父の話を聞きました。
 多分、父は泣いていたと思います。
  私は父が泣くのを初めて見ました。
 診察室で待っていた私は、とても怖かったのを覚えています。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ